ホーム > ダイビング > これから始める方へ「海洋実習」顛末(てんまつ)記 |
「海洋実習」顛末(てんまつ)記 1995年7月
7月18日(火) 朝、空を見上げると一面の曇り空。おまけに今にも雨が降り出しそう。ワイフは何をしていたのか、午前3時頃までゴソゴソやっていて、こっちまで寝不足だ。 気温は20度位しかないし、不安のかたまりで入る海は冷たいだろうなァ…? こんなコンディションでトレーニング大丈夫かなァ…? てな訳で初日がスタートした。 §
いつもの出勤と変わらぬ時間にワイフともども家を出て、一路目的地「城ヶ崎海岸」へ。横浜駅乗車のJRは途中乗り換えのため小田原駅で10分ほどの待ち合わせ。そのころには雨足も結構強くて、その上寒くって、すっかり出鼻をくじかれた感じ。でも、熱海で伊豆急の「リゾート21」に乗り換えたら、そのリッチさに少し機嫌が直った。 いつも伊豆へは車で出かけてしまうので、電車の旅は久々のせいもあるが「リゾート21」って知ってますか? すでに熱海駅のホームに入っていて、手には普通乗車券しか無かったのに、そのまま乗ってもいいんだという。どう見ても特急か急行券が無いとダメそうなんだけど、すっごくキレイな電車であった。 定刻の午前9時42分、城ヶ崎海岸駅に到着。パラパラと降り立ったのは一目でそれらしいと分る恰好の若者14,5人ほど。やがてワゴン車でやってきた妙齢のお嬢さんから大きな声で名前を呼ばれたので返事をしてその車に乗り込んだ。「今日は9人なので詰めて座って」とのリクエストにキュウキュウしながら揺られること約5分。やっと目的地の「インディー」さんに到着。雨の方は伊東を過ぎる頃にはすっかり上がっていて、どっちかというと高原の爽やかさという感じ。 (今日からの海洋実習は9人もいるのかぁ…) と思いながら、さっそく荷物を運び入れて説明を受ける段になったら、海洋実習組は我々を入れて5人、あとの4人はファンダイブ組で別々に分けられた。 インディーさんは普通の平屋の一軒家を改造した研修所みたいなダイブショップで、前を走る細い道は「ぼら納屋」とか「城ヶ崎海岸」へ抜ける時によく使う道ということもあって、なんだか初めてという気がしない。 海洋実習を受けるメンバーは我々ペアと浦和から来たという若者アベック(姓が違っていたんで夫婦ではなさそう)と、鈴木さんという私と同年輩の男性の5人。このうち鈴木さんは学科こそ蒲田で受けたがプール実習は我々と同じ横浜のデルマールさんだったとの話しを聞いて、敵地で味方を見つけたの如くさっそく「プール実習どうだった?」などと話しの花を咲かせた。 §
さて、初日1本目。 インストラクタは「はとおか」さんという20台後半(?)と見えるお兄さん。ちょっと厳しそうな雰囲気。早速、器材のセッティングの時うちのワイフ、イントラの言いつけにそむいて「デルマール方式(プール実習で習った、BCを手前にして股に挟んでタンクにベルトをセット)」でBCにタンク装着してたら「そのやり方は直した方がいいですよ!」ときた。(だって、こうやると楽だって教わったんだもン)と小声で反抗するワイフ。 実習するポイント「ヨコバマ」のコンディションは気温27度・曇り・波少々・うねり無し・水温22度。 今回のトレーニングの流れの説明を受けた後すぐさま海へ。ウムを言わさず指定された位置までレギュを使用して水面移動。 (あれ? そんなに冷たくないぞ) 浮き輪にネットをかぶせたようなマークから潜降開始。ここでもチョット勝手が違う。マスクの辺に水面が来るようウエイトを調節してから潜降するとばかり思い込んでいたが、いきなり「BCを空にしなさい」でマークから海底に垂らした潜降ロープ伝いに「さあ、どうぞ」。 プールの時は8人もいて混み混みだったけど5人というのは結構いいかも。BCから排気するとスッと体が沈んで耳がツーン。あわててロープを握り締めマスク越しに鼻をつまむ。周りを小魚が泳ぎ回っている。 ◆レギュレータ・リカバリ レギュレータを一度はずして、また咥え直す なんなくパス。 ◆マスク・クリア(目のあたりまで入れなさい) そうだ。深呼吸2回してからで良かったんだったナ。 海水が目のあたりで止まらず、全部入ってしまった。(マ、いいかぁ) ハミング、フーン。なぜか一度でクリアできず、二度目をフーン。 後で聞いたらワイフも失敗して全部入ってしまったらしい。 ◆中性浮力(ピボット、パワーインフレータ使用) 吸ってェ(1・2・3・4)、吐いてェ(1・2・3・4・5・6・7・8) おっ! できてる! いい感じ、いい感じ。 ◆オクトパス・ブリージング(交換のみで浮上しない) ワイフがエア切れの役と指示される。 ハンドシグナルOK! アッ! 俺のオクトパスと交換する間、こいつ息を止めてる! トレーニングはここまで。後をついて来い。と手招きされたので全員したがう。色々な種類の魚が泳いでいる。視界は5~7mとあまり良くない。イントラの後をついてしばらく遊泳。 ・キタマクラ…小型のフグみたい ・ダルマガレイ…砂の上をこれまた砂を乗せて動いている ・ヒメジ…黄色いヒゲが目印 ・コウイカ…小さなイカ、敵を威嚇する時体が茶色っぽく変る ・ソラスズメダイ…青い小魚、浅瀬で群れている ・その他、大型の魚は名前がわからなかった。 エキジット用に作られたコンクリートスロープの手すりから延びたロープ伝いにエキジット。 最大深度7.8m、ボトムタイム30分。 2時間51分の水面休息。昼ご飯の弁当がうまかった! ファンダイブ組みも合流して、しばしの平和。 「2,3日前までは視界が良かったけど、この所あんまり良くない」とはイントラの説明。 §
初日2本目。 ポイントのコンディションは1本目と同じ。今回もトレーニングの流れの説明を受けて、早速エントリー。タンクを背負って約20mほど歩いてエントリーするだけで息が上がってしまう。男の私がこうだから、ワイフはさぞかし大変だろうなァ…。でも、けなげに頑張っている。思わず心の中で(エライぞ! 頑張れ!)と声援を送る。 潜降方法も1本目と同じ。今度はワイフが一足先に海底へ。一歩遅れてこっちもロープに取りすがる。少し潜ると、なんとフィンのすぐ先にワイフの頭が。おい!早く行けよ! ンもう、邪魔だなァ。 ◆マスク・クリア(マスク内に全部入れなさい) さっき間違ってやってしまったから、ヘッチャラだい。 またまた深呼吸2回の後、みごとにクリア。 ◆中性浮力(ピボット、BCに口から吹き込む) えー! プールでやってないよォ。 せぇのぉ フーッ! おっ! できる! 後をついて来い、の手招きでポイントを移動。しばし、魚たちと戯れる。午前中より透明度が悪くなっている 。ここでフッと気がついた。(なんだ。無意識のうちに深い呼吸ができてるじゃん。吸ってェ(1・2・3・4)、吐いてェ(1・2・3・4・5・6・7・8))ワイフも快調に遊泳している。 ポイントを変えてトレーニングの続き。 ◆オクトパス・ブリージング(浮上する) 今度はこちらがエア切れの役。 ハンドサインの後ワイフの差し出すオクトパスに交換し、右腕同士しっかりつかみあって海面へ。 イントラがしっかり横で見張ってる。腕組みなんかしちゃってサ。 ◆水面でのトレーニング こむら返りの直し方。疲労ダイバーの曳航。 コンクリートスロープまでスノーケルに切り替えて戻りエキジット。 最大深度9m、ボトムタイム30分。 §
フーッ! 初日が終わったァ! インディーさんに戻って早速ログブックに記入する。へぇ~。トレーニング分でも記入できるんだァ。記入の仕方をイントラが教えてくれる。教え方が結構優しい。海に入る前の事前説明の時とは大違い。このイントラ最後にマークを撤収して帰ってきたが、やけに時間が掛かっていた。ちょうどエキジットがファンダイブ組と一緒になったので、我々は彼を海に残してファンダイブをガイドした妙齢のお姉さんと先に帰ってきてしまった。後で彼曰く「なんとかいう魚をジット見ていて遅くなっちゃった」 一歩下がって彼を見てみると「しゃべり方もおとなしいし、優しい性格」だということが分ってくる。きっと自然を大切にする生活が「人」を優しくするんだ。(我ながら名文句) 今夜の泊りの民宿へ案内されたら、例の私と同年輩の鈴木さんと一緒だった。若いアベックは別の民宿へ連れてゆかれた。 民宿に着くと食事の用意が整っていて、大好きなキリンラガーが冷蔵庫で冷えて待っていた。背中に背負ったタンクから乾燥空気を吸い続けた喉は「早く、早く」と、お湿りを渇望している、かといって徹底的にやってしまうと明日があることだし、ということで残念ながらワイフと3人で大ビン5本飲んだところで食事にとりかかった。 共通の体験をして来た仲間というものは始めから垣根なんて無いし、野球もベイスターズが好きというのでチャンネル争いにもならなかったし、3人で大いに盛り上がってしまった。 で、昨日からの寝不足と、緊張からの開放と、少々のアルコールとで「シュッ!コロッ!」と眠りに落ちた。 7月19日(水) 朝5時ごろ目が覚めた。 思わず空を見上げる。レレ? 曇ってる! それも黒い雲で覆われている。ダメダコリャ。 もう一度寝てしまった。 7時ごろ、また目が覚めた。 ン? 朝日が射している…。 エ? 朝日?? やったぁ! 今日は晴れだァ! 朝ごはんもそこそこに「インディー」さんへ駆けつけた。集合9時半といわれていたのに、9時過ぎに到着。昨日のイントラ、庭の草むしりやっていた。もう一人のお姉さん「もう来たの?」と唖然。 (あの二人、どういう関係なのかなァ) 集合時間を少し遅れてアベックも到着。10時15分に出発、ということで準備に取り掛かる。前の日インディーさんに置いてあった魚の図鑑を熱心に見ていたのが功を奏したのか、今日は魚でも見に行きましょうか? という話しになって、「色のついたハデな魚が見たい!」と全員一致。 §
2日目、1本目。 昨日と同じ手順でさっさとセッティングをし終わったらイントラの顔つきが変ってる。 我々二人はマスクに曇り止め塗って、言われないうちに港までトコトコ行ってマスクをザーッとやって来た。鈴木さん、一人やり過ぎてタンクまで背負ってしまってた。 「チームで行動しますので流れを作ってます。指示されたら全員が同じペースで行うように! 行動は私が指示します。」 (なるほど、その通りだ! 海中で皆がバラバラなこと始めたら危ない!) 一つ教わった。 ポイントのコンディションは、気温27度・晴れ・良好・水温23度。 きのうの1本目と同じ要領でまずは海面移動。ここでイントラがマークを設置している間、水面でのトレーニングを行う。 ◆BCの脱着 あれ? 脱げたけど着れないぞ? と悪戦苦闘。 レギュのマウスピースを目一杯噛んでしまって奥歯は痛くなってくるし…。 いけね。BCにエアがパンパンに入ってた。 マークが設置されたところで、昨日と同じく海底へ。少し場所を移動してホバリングの練習。 ◆ヒザ立ちの姿勢のままBCへ少しずつエアを入れる 例の吸ってェ、吐いてェを思い出しつつイントラの指示でエアを入れる。 オッ! 浮いてる。 あれ? 止まんない! エッ? エアを抜けって? ワァ、今度は沈む! 大きな呼吸ができないよォ。 体勢も安定しないし。 バタバタしちゃう。 ワイフは上手にできていた。私は順番が最後だったせいか、きちんと止まれないうちにOKが出てしまい魚の見学に出発してしまった。今後に不安が残る。…でも、遊泳しているうちに何となく感覚が解って来た。宇宙遊泳ももしかしてこんな感じ? ・ミノカサゴ…25~30cm級、優雅に泳いでた ・イカのタマゴ…葉っぱの裏にビッシリという話し、残念ながら私は見れなかった ・アナゴの一種…尻尾から砂にもぐる ・クマノミ…イソギンチャクの間を出たり入ったり、黄色い種類 ・ハコフグ…名前の通り、四角い箱のよう しかし、相変わらず透明度が悪い。場所によっては2~3m先を行くイントラのフィンを見失いそうだ。 そんな状況で突然事件が起こった。 私の左前にいた鈴木さんが突然泳ぎをやめた。そしてこちらを振り向いて何か合図している。どうやらイントラの姿を見失ったようだ。あれ? ワイフがいない。それに若いアベックの姿も無い。360度グルリと周りを見廻すが鈴木さん以外の姿が無い。ダイビングの教本には「1分待ってバディが見つからなかったら浮上しなさい」って書いてあったことを思い出す。で、鈴木さんにハンドシグナルとジェスチャーで「浮上する?」とメッセージを伝える。 そして、まさに浮上しようとしたその時にイントラがワイフを連れて現れた。同じ頃、今度はアベックが寄って来た。後で聞いたら、ワイフは突然浮きはじめて海面まで行ってしまったそうだ。それに気付いたイントラが追っかけて連れ戻したらしい。アベックの方は?というと、別のグループについていってしまって、あわてて引き返して来たそうだ。しかし、あの透明度の悪い海の中で良く出会えたものだ。「すっごい不安だった」とアベックの男の子が言っていた。 そして初日と同様、エキジット用に張られたロープ伝いにエキジットスロープへ。 最大深度14m、ボトムタイム38分。 ワォ! 14mも潜ったんだ。 2時間48分の水面休息。今日も昼飯がうまい! 健康な証拠! 平日だというのに今日もファンダイブ組が来ていた。22~3位の女の子5人。ダイブもいいけど陸(おか)もいい。今年の2月に沖縄でライセンスを取ったと話してくれた。 イントラの「はとおか」さん、せっせと道具の整理とかして忙しく動き回ってる。ファンダイブのガイドをしていたお姉さん、我々と一緒になって弁当食べてる。ほんとにこの二人、どういう関係? 女王様と召使い? ふと見たら「はとおか」さん、こんどは水槽の“みどりカメ”にハシでエサやっていた。 §
2日目、2本目。 ポイントのコンディションは1本目と同じ。今回をクリアすればライセンスに到達できる。はやる気持ちを押さえて早速エントリー。 今回はマスクの脱着がメニューに入ってる。ワイフの苦手な種目だ。 きっとプール実習の時の悪夢が脳裏をよぎっていることだろう…。でも、頑張れ。風呂での特訓の成果を出す時が来た。「始める前に深呼吸2回」というキャノン加藤さんからのアドバイスをもう一度伝えた。 今回もいつもと同じように潜降を始める。 いよいよだ。 ◆マスク・クリア(マスクを完全にはずしなさい) いよいよワイフの番だ。うまくやれョ。 ン? よしよし、深呼吸しているナ。 始まった…。 思ったより落ち着いている。 マスククリアもうまく行ったようだ。 ヤッタァ! イントラがストラップの様子を見ている。 よしっ! OKが出た。 …次はこっちの番だ。 ゾクゾクするゼ。 せーの、でマスクをはずした。 「海の水ってぜんぜん目にしみませんョ」とのキャノン加藤さんの言葉に嘘はなかった。 みごとにクリア。 ◆緊急スイミング・アセント マークの下までポイント移動。 一人ずつ上がって行く。 ポイント移動の時に順番が前後してしまって女性二人を残してこちらが先に上がることになった。 この順番だとワイフが最後になる。浮上の時の最後って結構不安なもんだし、チョット心配。 で、こっちの番の時あわててBCにエアを入れてしまって連れ戻された。 落ち着け!と、自分に言い聞かせて再び挑戦。 「ウー…」と息を吐きながら浮上。水深約7m、楽々クリアできた。 しかし、次のアベックの片割れがなかなか来ない。うまくできないようだ。 (早くしてやれよ) ………。やっと来た。 次はワイフだ。 しかし心配することはなかった。何事も無かったかのように浮上して来た。 「下に取り残されたようで不安だったろ?」 「お魚さんと遊んでたから平気だったョ」 エキジットの指示が出て、全科目終了。 最大深度10m、ボトムタイム33分。 終わったぁ~! §
「インディー」さんに戻って今日の記録をログブックに記入する。ライセンスの申請書にも必要事項を書き込む。書類の作成が終わって一段楽した時にイントラの「はとおか」さんが話してくれた。 「マスククリアどうでした? 実際にマスクがはずれることはほとんど無いですよね。でも、海の中でジッと魚とかイカを見ていると何かこう目がウルウルして来ません? その時、涙がたまると困るでしょ? そんな時のためにマスククリアの練習が必要なんですよネ」 ウーン。やっぱりこいつは優しい人間だ! そう言えば自分も二日間海と親しんで気持ちがリフレッシュされている。やっぱり、自然が人を優しくしてくれるんだ。 すべてが終わり、来た時と同じように今度は「はとおか」さんの運転で駅まで送ってもらったのが電車到着2分前。あわただしく改札をくぐりぬけホームへ。そのため「はとおか」さんに挨拶がロクにできなかったのが、すっごく心残り。 しかしそんな哀愁とは無関係に、すべての講習をやり遂げた海洋実習組5人の満足感と、軽い疲労を乗せて城ヶ崎海岸駅17時22分発の伊豆急はそれぞれの家庭目指して帰路についた。 |
ホーム > ダイビング > これから始める方へ |
このHPに掲載の記事、写真、イラスト等の転載を禁じます。すべての著作権は痛さんに帰属します。 since 1997.10.18 (C)1997-2015,Tsuusan. All rights reserved. |