座間味へ行こう 1999年5月20日



「どっか潜りに行きたいよ~」
しょうもないテレビを見ていると、ワイフの独り言とも催促とも受け取れる言葉が聞こえてきた。
無視していると、
「5月連休は高いよねェ」
と、今度は少し大きな声で言う。

 ダイビングなるスポーツというか趣味にのめり込んで早4年。バリの海に感動して自分達の器材を揃えてしまうと後は坂道を転がるように水中の世界へ。もう数年で50才という年齢も省みず、気持ちだけはまだ20才台と信じ込んでいるワイフと私。

 そして今朝は4時起きで沖縄・ケラマ諸島の座間味島へと向かうことになってしまった。

 座間味へは2年前の夏に初めて行ったが、世界でも屈指のダイビングスポットと言われるだけあって、青く澄んだ海の中は別天地。まるで水族館で見る熱帯魚の水槽の中にいるような、そんな光と色の世界を味わってしまってから「絶対にまた来るゾ!」とチャンスをうかがっていた楽園だ。

 出発日は5月20日、木曜日である。幸いなことにダイビングのトップシーズンを前にしたこの時期に、勤め先が金曜日からの3連休を設定していて、その前後に有給休暇をくっつけて4泊5日の行程を確保できたのだった。もちろんツアー関係もシーズンオフなので、ありがたいことに料金も格安なのが見つかった。
 4年前、我々はワイフと二人でダイビングのCカードを取ったので潜りに行く時は大抵一緒。で、費用も当然二人分で、悪いことに月々の収入は私の「稼ぎ」しか無いのである。そうそう遠出は無理なのもマァ仕方が無い。


 当日の朝は次男にYCAT(横浜シティエアターミナル)まで車で送ってもらい、午前5時15分YCAT発羽田行きの一番のリムジンバスで羽田へと向かう。

 格安ツアーの宿命で、那覇への飛行機は早朝、羽田発午前6時30分のJAL便なのである。それで羽田の団体受付カウンターへの集合が午前5時半から6時となっている。年のせいか朝早いのはそれほど苦にはならないが、交通機関が不自由なのがタマにキズ。

 YCATを定刻に出たリムジンは首都高速を通って30分で羽田の出発ロビーに到着した。バスから降りると二人分の器材を詰めたバッグをゴロゴロと引きずってJALの団体受付カウンターへと急ぐ。チェックインカウンター前のロビー・スペースには既に大勢の旅行客が集まっていて、かなりの賑わいだ。

 定刻を10分ほど遅れてJAL931便・沖縄行きは羽田を離陸した。


 約2時間半のフライトで、飛行機は那覇空港に着陸した。朝が早かったので機内ではうとうとしていたが、「藤原紀香のビンゴゲーム」が始まると目が覚めてしまった。

 飛行機を降り、ターンテーブルからチェックインの時に預けたダイビング器材を受け取ると、ゴロゴロとキャスターの音をあたりに撒き散らして空港ロビーへ出たのは良いのだが、さて、座間味へ渡る船の出港は午後3時。今はまだ午前9時半。6時間近く何してヒマをつぶそう。

「とりあえず器材をどこかに預けようョ」
「あそこに観光案内があるから聞いてみようか」
と、ワイフが観光案内のカウンターへ行って何か話をしている。やがて戻ってくると、
「あのコインロッカーに入れろ、だって」
「あれじゃ小さくて入んないよねェ」
ワイフの視線の先を追うと、駅などで良く見るタイプのコインロッカーが目に付いた。
「たしかに。あれじゃダメだ」
「とりあえず泊港まで行ってみようか」

 空港ロビーから自動ドアを開けて外へ出ると直ぐにオッチャンが近寄ってきて
「どこ? 観光?」
と聞いてくる。
「ちがう。泊(とまり)港まで」
と無視して、目の前のタクシー乗り場へと向かった。

 タクシーに乗り込み、行き先を告げて運チャンと世間話を始めると、
「船までの時間、ヒマつぶしに観光でもしたら?」
「6時間なら1万円でいいョ」
ときた。
「ウ~ン、1万はキツイなぁ」と私。
「沖縄は何回か来てるんで、まだ行ってない植物園へ行きたいんだけど」とワイフ。
「それじゃ7千円でどう? 植物園へ行って時間までに泊港へ戻ってあげるョ」
「7千円かァ」
「荷物を持って歩くのも大変だし、ま、いいか。じゃ、お願いします」

 そんなこんなで、7千円でタクシーを貸し切って「東南植物楽園」へ行くことになった。タクシーは混雑する国道58号を避けて裏道を通り、普天間基地の横を過ぎて嘉手納基地のフェンスを左に見て走る。1時間近く走っただろうか。ようやく目指す「東南植物楽園」へ着いた。
 タクシーを降りる時にチラリと見たら料金メーターは4,300円を示していた。

 入園料お一人様1,000円を支払って入った「東南植物楽園」は、植物園と言うよりはきれいに整備された公園といった雰囲気の場所だった。東南というくらいなのだから東と南なのだろうか、公園自体が駐車場を挟んで2ヶ所に分かれている。

 2時間ほどかけて両方をブラブラ歩いて回って再びタクシーに乗り込んだ。


 時計を見ると既に昼はまわっている。
「この辺で何か美味しいもの食べられる店ないですか?」
「安いトコがいいんだけど」
「それじゃ、大衆食堂だけど沖縄ソバが美味しい店があるからそこへ行きましょう」
と、連れて行ってくれた店は「鶴小」というチェーン店。嘉手納基地の近くの北谷(ちゃたん)という町にあった。
「ソーキそばが美味しいから、それを頼みなさい」
と運転手さんにすすめられていたので、席に案内されると早速それを注文する。
「それと、カツドンのセットとビールもお願い」
と、いつものワンパターン・メニューも注文した。

 「ソーキそば」とは骨までクタクタになった「ソーキ」と呼ばれるブタの骨付き肉が、沖縄独特のそばの上に乗っている。つゆは海鮮系の出汁(ダシ)で取ったあっさり味。それが粘りの少ない沖縄そばにマッチして妙に懐かしさを感じる味だ。

 腹ごしらえを済ませ、適当に時間をつぶした我々を乗せて、タクシーは午後2時過ぎに泊港へ着いた。

 座間味へ渡る船は「クイーン座間味」という高速艇。那覇の泊港と座間味の間を1時間少しで結んでいる。が、本数が少ない。1日2便しか無い。今回のツアーに申し込んだ時に、飛行機が朝一番だったので、てっきり昼頃には座間味へ入れて午後から1本追加ダイビングができるかも、などと甘い考えでいたのだが、横浜を立つ前にインターネットで「クイーン座間味」の時刻表を調べて愕然とした。9:00と15:00の2便しか無いのだ。この時点で那覇での「ヒマつぶし方法」に頭を使わなければならなくなった。

 定刻の午後3時、「クイーン座間味」は泊港北岸の岸壁を離れ、いよいよ私たち夫婦は2年ぶりの座間味へ向かった。


 座間味港では今回もお世話になる「沖縄リゾート」さんのスタッフ、ツネさんが出迎えてくれた。

 そして2年ぶりにオーナーの村田さんと再会。オーナーは相変わらずバイタリティー溢れ、ファイトの塊のような風貌はいささかの衰えも見せていない。受付をしてザッとシャワーで疲れを流すと、夜は併設されているパブ「アルデバラン」での楽しい夕食。オーナー村田さんが腕をふるった魚づくしの料理はボリューム満点で、とてもじゃないが食べきれない。

 今夜のゲストは我々夫婦が二人きり。貸し切りツアーの始まりだ。