「ウガン」「ヤカビの海底トンネル」と誕生日 1999年5月23日



 昨日の夜からゲストが一人増えた。
 ここ沖縄リゾートさんの常連「N美」さんだ。メチャ明るいN美さんが加わって昨日の夕食は賑やかなものとなった。だんだんと親戚の家にいるような感じになってくる。

 朝、出掛けにオーナーから
「実は今日、N美ちゃんの誕生日なんや」
「それで海の中でお祝いをしてあげたいから協力して?」
と耳打ちされている。もちろん彼女には秘密だ。
「それと、夕食の時の誕生パーティー用に早めに帰って手作りケーキを焼きたいんで、2本続けて潜っちゃいます」
とも言われている。
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<1本目>
ポイント名:ウガン(男岩)
天候:晴れ うねり:無し 流れ:あり
EN:10時21分 EX:11時04分 潜水時間:43分
最大深度:-19m 平均深度:-11m 水底水温:25℃

 海中からドーンと突き出ている男岩の岩陰にボートが到着した。ここも大物ねらいのポイントのようだ。

「エントリーしたらボートの前のアンカーロープの下で集合です」
「ハナヒゲウツボはボートの岩側のあたりです」
「しばらく岩沿いに行って見晴し台いうトコでイソマグロを見て帰ってきます」
「最大20mくらいですが、帰りは8mくらいです」

 ブリーフィングを受け、早速エントリー。N美ちゃんはバックロールで入ったが我々夫婦は相変わらずのジャイアントストライド。

 集合場所にかなり広いテラスがあって、直ぐにオーナーの演出が始まった。
 ポケットから「Happy Birthday」と書かれたTシャツを取り出すと我々に手渡した。それをワイフと二人で両方から広げると、真ん中にN美ちゃんを座らせた。
 N美ちゃんは一瞬(何が起こったの?)といった顔をしていたが、やがてTシャツに書かれた文字を見て事態を呑みこむと、全身で喜びを表わした。座間味でも有名なポイントでの海中誕生パーティー。オーナーの粋(いき)な計らいで忘れられないパーティーになった。

 明るい座間味の海での誕生パーティーが済むと、右に壁を見てハナヒゲウツボを見に行った。きれいなブルーのハナヒゲウツボは巣穴から懸命に体を伸ばし、大口開けてエサ捜しに夢中の様子。初めて見たが、こいつはジッと見ていても飽きない。
 その時、中層を5~60cmのイソマグロが1匹泳いで行った。

 壁伝いに移動していて浅い洞窟、というよりは岩の裂け目の中にネッタイミノカサゴのつがいを発見。おおきなナンヨウブダイも数匹独特の面構えで泳いでいる。

 水中の景観は一言で言うと「ダイナミック」。30mくらいの透明度の先はブルーの世界。ちょうど潮の流れの止まっているこの時間帯しか潜れないらしい。天気も良いし、今回は本当にツイている。

半周ほどして来た道を引き返し、ボートの下のクレバスでしばらく遊んで、エキジット。

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<2本目>
ポイント名:ヤカビの海底トンネル
天候:晴れ うねり:無し 流れ:無し
EN:11時57分 EX:13時03分 潜水時間:66分
最大深度:-11m 平均深度:-9.6m 水底水温:25℃

 今回の座間味での最後のダイビング。オーナーの計らいでノンビリとできるポイントへ。実はここは2度目だったので勝手知っている分ノンビリできる。で、なんと66分も潜っていた。

「トンネルへ入ります」
「入り口が-8m、中が-4mです」
「とってもブルーがきれいです」

 まずは水中ライトを片手にトンネルへ。ところどころ天井の割れ目から差し込む光が水色のカーテンのようにふんわりと揺れている。トンネルの中は暗いところが好きなのかアカマツカサが大群で群れている。迷い込んだツノダシが1匹、目の前を過ぎて行く。
 トンネルを抜け、上にボートを見て先へと進む。
 このあたりのサンゴは残念ながら白化なのか、白茶っぽく変色しまっていて廃墟のようになっている。

 オーナーの「停止」のサインでそろそろと近づくと、大きなコブシメがホバリングしていた。
 じっと見ていると次々とコブシメが集まってくる。全員が動きを止め、ジ~ッと見ていると、そいつらも手を伸ばせば触れそうな距離まで近づいてきてジッとこちらを観察している。メスのコブシメがわずかに残ったエダサンゴの根元に卵を産みつけている。極度の緊張からなのか体の表面の色をめまぐるしく変えている。
 ホンのすぐそばまで近寄ってきた奴はこちらと目を合わせたまま動かない。

 コブシメに夢中になっていて、ハッとして残圧計を見るとレッドゾーンに突入し30を指していた。あわててオーナーに知らせるとボートへ戻ろう、のサインが返る。ダイコンも無限圧潜水の限界を知らせている。

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 エキジットするとボートは全速力で港へ戻った。

 港へ着くと我々は器材を持って沖縄リゾートへ戻った。楽しかったダイビングはこれでおしまい。サービスへ戻って器材を洗ってしまわなければならない。一方オーナーはケーキを焼かねばならない。今夜のイベントを知らないN美ちゃんは何をしているのだろう。

 器材をザッと洗って干し終えたら2時半になってしまった。ワイフと遅い昼食を取りに初日に行った食堂へ行ったら閉まっていた。仕方がないので島でただ一軒のハンバーガーショップで軽い昼食を取った。
 後は部屋でゴロゴロして夕食の時間を待った。

 夕食はいつものように午後6時から始まったが、今夜は夕食の後にN美ちゃんの誕生パーティーが計画されている。もちろん本人には内緒だ。相変わらず食べきれない量の料理を出されて、つられてビールをガブガブ飲んで。ただ、ご飯はお祝いの「お赤飯」が出てきた。しかし、2年前にも感心したのだが、ここのオーナー村田さんは料理がうまい。短時間のうちにこれだけ手の込んだ料理を良くこなすと、感心してしまう。

 そして、パーティータイム。

 スタッフ、ゲスト全員のハッピバースデーの合唱の中、オーナーがスポンジケーキから作り上げた本格的なバースデーケーキの登場だ。わが娘のように目を細めるオーナーと、少しはにかんだN美ちゃん。我々夫婦もお祝いのご相伴に預かって、こうして座間味最後の夜は更けた。