ハマナカとイジャカジャ東を潜る 1999年5月21日



 いや~。昨夜はビールがうまかったァ。

 昨夜はビールを飲みながら、オーナーの目下の恋人、クジラの「シロ」のビデオを見せてもらい、オーナーのクジラ談義に時の立つのも忘れてしまった。
 宿泊は民宿「座間味亭」。沖縄リゾート併設というか、直営の民宿である。

 午前8時30分、朝食。沖縄リゾートでの朝食は自家製のパンと決まっている。座間味にはパン屋さんが無いので、毎朝オーナーがパンを焼いている。その焼き立てのパンの美味しいこと。まわりはカリッで中はフワフワ。パン切りナイフを使ってもフワフワしていて上手に切れない。今朝のパンはコーヒー入りなのだそうだ。

 朝食を済ますといよいよ座間味での1本目の支度(したく)に入る。メッシュバッグに器材を詰め込み、ウエットを着込む。テレビの天気予報だと今日の沖縄地方は気温23℃、東京・横浜は27℃となっている。天気は朝から快晴なのになぜかこちらの方が気温が低い。
 9時20分の集合をきちんと守って準備が整うと、さんざん塩で痛めつけられたワゴンに乗り込み港へと向かった。

 ストレッチで体をほぐし、いよいよボートへ乗り込む。今回のボートは漁船のような船だ。
 早速ワイフが、
「バックロールかなぁ」
「アレ、嫌いなんだよなぁ」
とつぶやいている。

 そんなことにはお構い無しにボートは青い海の上を走り始めた。

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<1本目>
ポイント名:ハマナカ
天候:晴れ うねり:無し 流れ:無し
EN: 9時56分 EX:10時40分 潜水時間:44分
最大深度:-17m 平均深度:-11.6m 水底水温:25℃

 ワイフともども半年ぶりのダイビングなので、「1本目は軽くして欲しい」と出港前にオーナーにお願いしておいた。
が、「初めにスキンで少し泳いで水に慣れましょうか」
と言っていたのに大丈夫と見たのか、器材を背負ってそのまま行くことになった。

 オーナーが船べりからジャイアントストライドで入ったのを見てワイフも私もジャイアントでサブンとエントリー。耳抜きも快調で、水深6mほどの所で集合して移動を開始した。

 このポイントは白い砂地に根と呼べないような大きさの岩が点々と置いてあって、カラフルな魚たちが群れ遊んでいる。こんもりとしたエダサンゴの根の上を漂うリュウキュウスズメダイの群れが泡のようだ。

 ボートの上から見ても海底が透けて見えるほどの透明度の上、幸いにして晴れている。2年ぶりの明るい座間味の海をゆっくり、ゆっくりと移動して、やがて5~60cmの岩の所でオーナーが角度を変えながらしきりとビデオを撮り始めた。

 手招きされて見に行くと、岩の陰で真っ赤というか朱色を濃くしたような触手がうごめいている。エントリー前のブリーフィングで紹介された光る貝(ウコンハネガイ)だ。真っ赤な外套膜の触手がいかにも怪しい。ただ、残念なことに外套膜に沿って稲妻のような光が走るのだが、この時は確認できなかった。後でロギングの時にオーナーの撮ったビデオにはハッキリと写っていたのだが。

途中の根で手のひらサイズのハマクマノミを見ていて指を攻撃される。何気なく置いた指を何かがツンツンとつついている。見るとグローブの指先へハマクマノミがしきりと攻撃を仕掛けている。後で見たらグローブの指先が裂けていた。
ハタタテダイのつがい。クロユリハゼ、セグロチョウチョウウオ、ツユベラなどを見て上がる。

透明度30m

 エキジットするとボートは港へと引き返す。
 座間味のダイビングスタイルは午前1本、午後1本の合間にはほとんど港へ引き返し、陸(おか)で水面休息を取る。器材はメッシュに押し込んだままにして、サービスまで戻った。
 サービスに戻るとシャワーを浴びて昼食を取りに出た。前回来た時にはなかった定食屋さんが近くにあったので、そこへ行ってみた。
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 2本目の集合は午後1時半。まだ1時間ほど暇があるので部屋へ戻って腰を伸ばす。うつ伏せになって部屋にあったダイビング雑誌を見ていると、だんだん眠くなってくる。昨夜は窓を開けたまま眠ってしまったのだが、夜中に寒くて目が覚めた。座間味の5月の夜は昼間と比べると、うんと気温が下がるのだろうか。

 時間になったので、久々にタンクを背負ったせいか少し痛む腰を「う~ん!」と伸ばして起き上がると、2本目の準備に取り掛かった。
<2本目>
ポイント名:イジャカジャ 東
天候:晴れ うねり:少々 流れ:無し
EN:13時24分 EX:14時06分 潜水時間:42分
最大深度:-15m 平均深度:-10.6m 水底水温:25℃

「2本目はカメを探しに行きます」
「この辺は大潮の満潮を狙ってカメが卵産みに上がってくるんです」
「それで、大潮の時期までこの近くでウロウロしてるので皆で探しましょう」

 そんな村田オーナーのブリーフィング後、ザブザブと順番にエントリー。

 エントリー直後、集合場所に1匹居たようだが我々は見れなかった。後でビデオを見せてもらったらコバンザメを2匹お腹にくっつけたカメが悠然と泳ぎ去っていった。
 モンガラカワハギ、ビッグサイズのツノダシなどがダイバーを恐れずに悠々と泳いでいる。
 このポイントはエントリー直後からテーブルサンゴやエダサンゴが延々と続いていて、宣伝ポスターに出てくるような座間味らしいポイントである。テーブルサンゴやエダサンゴがどこまでも続く。去年のエルニーニョ現象の影響で世界的にサンゴが白化して死滅しているニュースを聞いていたが、ここは大丈夫。座間味のサンゴって案外タフなのかも知れない。

 と、オーナーが突然ダッシュした。後を追うと岩穴に片手を突っ込んでいる。何事かとジッと見守っていると、やがてオーナーの腕に巻きついた長いタコの足が見えた。しばらくオーナーとタコの格闘を見守って、やがてその場を後にした。

 しばらくゆったりと移動していると、オーナーが突然止まった。見ると手に大きなボールを抱えている。ん? 良く見るとそれはパンパンに膨らんだフグだった。オーナーから手渡され、軽く押してみるとチョット硬いスポンジのような感触がした。
「中に何が入ってんのかなァ」
「空気じゃ浮いちゃうしねェ」
後でワイフが不思議がっていたが本当にそうだ。

 その後さらにカメを探してサンゴの見える素敵な風景の中を遊泳したが、残念ながら見つけられずにエキジット。
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「痛さん、釣りに行こうか」
オーナーに誘われて、生まれて初めての釣りに出た。
 夫婦して、とにかく釣りなんてやったこと無いんだからさあ大変。イカの切り身を恐る恐る針につけるとドボンと重りを投げ込む。浮などついていない。重りが海底に着いた感触で少しリールを巻いて、底の方の魚を狙うのだ。それでもファーストラッキーなのか、座間味の魚が無防備、無警戒なのか面白いように釣れはじめた。

 「痛て!」
 糸を投げ込もうとして右手の中指に針を引っ掛けてしまった。とっても痛いのだが針は簡単には抜けてくれない。オーナーがペンチを貸してくれたので、ブチッと思い切って引き抜いた。
「スタッフはみんな一度は経験してるから痛いのは分かりますョ」
オーナーも、スタッフのチィちゃんも、ワイフまでもが笑っている。
(他人事だと思って、もう)

 釣りの才能はどうやらワイフの方があるようで、タイをはじめ大型の魚を次々と釣り上げていった。

そして、「ラスト7分」と、オーナーが言ったとたんオーナーの竿が大きくしなった。
「来た。大きいぞ!」
オーナーが釣り上げたのはなんと60cmはあるシロダイだった。

 たぶん、この日から「ラスト7分」は伝説となった。

 なお、このとき釣り上げた魚が早速夕食のテーブルを飾ったのはいうまでもない。