東京タワー、ヤカビの海底トンネル 1997年7月



 一夜明け7月29日の朝が来た。夕べはロギングが終わって帰ってきたのが12時近かったのと、やはり旅の疲れのせいで「シュッコロ」と眠りについてしまった。夜、窓を開けっ放しにしてしまったが明け方近くは少し寒くて半分閉めた。でも、朝陽が昇るとすぐに暑さがぶり返す。

 朝食だけはこの民宿でいただくことになっていて、8時に「食事の用意ができた」とアルバイトの女の子に呼ばれ、階下へ降りていった。これが座間味での初めての朝食だったが、別段横浜と味は変わらなかったので一安心。実は座間味へ来る前にインターネットで情報を少し集めたのだが、その中に「座間味の食事はあまり良くない」というのがあったので、内心心配してたのだ。ワイフも「これなら普通だネ」って安心の様子。地元の料理を口にするのも旅行の楽しみの一つだからネ。

 今日の1本目の集合はボートに午前9時半。昨日、器材を宿まで持って帰ってきてたので9時20分にピックアップしてもらうようロギングの時に頼んでおいた。で、チョット早目だったけど2人分の器材を詰めたメッシュを肩にかけて宿を出た。表はまだ9時過ぎだというのに陽射しが強くて、とてもじゃないけど日陰じゃなければ居られない。そんな中を肩にズッシリと重みを感じてメッシュを担いで近くの交差点まで出て車を待った。そして、ほぼ時間通りにやってきたオーナー運転のワゴン車で昨日と同じ桟橋まで運んでもらった。

 桟橋でいつもの軽い体操の後、
「寝不足、二日酔い、気分の悪い人はいませんか?」
「体調の悪い人は潜れませんョ」と村田さん
(村田さんが一番寝不足じゃないの?)と内心思ったが黙っていた。

 そして1本目のポイント「ウチャカシ」に着いた所でブリーフィング。ここには「東京タワー」という根があるのでそこまで行って、残圧の様子でボートを止めたすぐそばの島をぐるりと回ってくる、とのことだった。そしてまた例によってバディチェックの済んだ組からドボドボとエントリーが始まった。我々もタンクを背負って準備をしたのだが、私は今朝、いつものようにご飯をお代わりしてしまって何だかやたらに、お腹が張っている。
「なんかお腹が張っちゃってヤダなァ…」
「食べ過ぎじゃないの?」
「そうみたい。明日は軽くにしとこ」
などと言葉を交わして我々もエントリーした。

 我々も含め、今回も13人程が一緒に潜っている。集合を確認の後、村田さんを先頭に「東京タワー」を目指して移動が始まった。ここのポイントは昨日とはうって変わって実にダイナミックな地形の連続だ。水深5m程の所に集合した後、眼下にいくつかの深い谷を見ながら立て続けに山を越えて水深を下げて行く。潮の流れはほとんど無いようだ。いわゆる熱帯魚も相変わらず種類、数ともに多い。ワイフの方はというと、どうもレギュの具合が良くないらしい。息を吸っている間も排気の泡がブクブクと出ているのだと言う。つい一ヶ月前にオーバーホールに出したばっかりなのにフリーフローしてるらしい。いつもよりエアの減りが早くて不安なようだ。

 今回の座間味へはBCに頼らない中性浮力を試してみようと思ってやってきた。雑誌で読んだ「浮き気味の呼吸」と「沈み気味の呼吸」を試してみるのだ。で、実際やってみると思ったより簡単にできるでことがわかった。なによりも広々と周りが見えるのが一番プラスに作用しているようだ。だだっ広い空間にポツンと浮いているような、そんなイメージが頭の中に広がって、ゆったりと体が上下するのが良くわかる。BC操作をあまりしないで済むというのも快適なものだ。また、サンゴの上に着地した時にこの方法を使って、フィンキックなしで浮かびあがらないとサンゴを壊してしまうし。(へへ、とは言うものの何本かエダサンゴを折っちゃったけどネ)

 途中で残圧のチェックを受け、時々村田さんのビデオを意識してカメラに向かって手を振ったりしながらゆったりと遊泳を続けること約30分。潜降地点へ戻ってきた。(あれ? 東京タワーは?)
 エキジット後に不審に思ったんで
「東京タワーってどこだったんですか?」って聞いたら
「ほら、下の方が東京タワーみたいにスーッとしてたやんか」
「あぁ…、あれですか。あの山みたいなヤツですかァ」
確かに、根の立ち上がりが東京タワーの足の部分のようになってはいたけど、
(あれじゃタワーじゃない、富士山だョ)
と、チョット裏切られたような気分を乗せてボートは港へと引き返した。

この時に見た魚、
アカモンガラ、ハナゴイ(本当はショッキングピンク、水中では薄い水色紫色)、シマハタタテダイ
最大深度15.8m、水底温度28.9℃

 港へ戻るとタンクの積み替えを手伝った。2本目の出港は午後2時だと言う。まだ12時前なのでずいぶん時間がある。ボートには新しい顔ぶれの若い夫婦者が乗ってきた。体験ダイビングだと思って後で聞いたら今日北海道から座間味へ着いて1本目に出る所だった。ここのダイビングサービスも大変だ。我々を降ろすと直ぐに出港して行く。

 お昼の弁当がサービスに用意してあるというので、一緒に潜ったメンバーとブラブラと歩いてサービスまで戻った。戻る途中も真夏の太陽は遠慮なく我々をあぶり、どんどん体力を奪われてゆくようだ。サービスでお弁当を受け取ると、めいめい勝手な場所を選んでの昼食タイムだ。弁当の美味しい匂いにたまらなくなったのか、大型のオーナーの飼い犬が恨めしそうにこっちを見てる。でも犬小屋の屋根に「エサをあげないで」って意味のことが大きく書いてあるので可哀相だがあげられない。時々催促して「ワン」なんて吠えている。

 冷たいお茶を何杯かお代わりして、
「ここにいても暑いし、民宿にいようか」
「そうしようか」
ということで強い陽射しを避けに民宿へ戻り、何も無い部屋でゴロリと横になる。1時間は余裕があるのでクーラーに百円玉を一つほうり込んだ。さすがに窓を開け放っていただけではこの暑さには耐えられない。
 眠ってしまうと大変なので、先客が残していったらしい雑誌をパラパラとめくって、腰を伸ばしていた。以前からどうも疲れてくると腰が痛くなっていけない。重いタンクを背負うなんてホントはいけないのかもしれない。

 時間になってボートまでトコトコと歩いて行ったら既に何人か乗っていて、アシスタントのヨーコさんに「混まないうちにセッティングしちゃって」と声をかけられた。ここのサービスが使っているタンクはいくつかの種類があって、それぞれ太さが少しずつ違っているので毎回タンクを留めるベルトを調整しなければならない。セッティングしてたら上から「軽く体操をしましょう」と村田さんの声が降ってきた。セッティング途中であわてて船から桟橋に登り、屈伸に参加する。腰の辺りをボキボキ鳴らし、体操が終わって船に戻った所で村田さんからさっきの若夫婦が紹介された。さっき1本目を村田さんとヨーコさんを独占して二人で潜って来たそうだ。
「専属ガイドなんてラッキーだったネ」と思わず口をついてしまった。

 2本目のポイントはヤカビの海底トンネル。「トンネルの途中4mほど光の射さない所があるから懐中電灯を持つように」ってブリーフィングで言われたのにワイフは持たずにエントリーした。こっちは自宅から持ってきた自分のライトを持ってエントリー。今日は2本とも地形の面白い所を案内してくれるようだ。
 エントリーして潜降中に集合場所を上から見たが、結構深い。着底して深度を見ると15mを超えていた。少し移動してやや広い所へ出るとそこがトンネルの入口だった。この辺りは三井鉱業の持っている鉱山の跡で「以前に金を多量に含んだ岩を見つけた人がいた」とブリーフィングで言っていた。が、どうも村田さんの言うことは冗談かホントかわかりにくいので困る。  そして、いよいよトンネルに入っていった。

 トンネルの中は完全な洞窟ではなく、ところどころ天井が抜けていてそこから太陽の光線が射し込んでくる。その陽の光がまるでレースのカーテンのように揺れて実に美しい。天井までの高さは広い所で5m位であろうか。一番狭い所は一人がやっと抜けられる所があった。そんなトンネルに10人を超すダイバーが入っていったのだ。何度か頭をフィンで蹴られた。また何度か逆に頭を蹴ってしまった。マスクの前を泡がブクブクと過ぎるので下を見たら、重なるように私のすぐ下に人がいた。さすがに一番狭い所は一人ずつ抜けたのだが、私の番の時にタンクがつかえて通れない。少し戻って這うようにして行ったらヤットコ抜けた。そしてブリーフィングで説明された光の射さない部分。ワイフは「ストレスになるような物は持ちたくない」なんて言って手ぶらで入ったので仕方なく後ろから進路を照らしてやる。それでも割と広い場所だったので問題なく通過した。
 しばらく進むと目の前に出口が見えた。ブリーフィングで「トンネルの出口のブルーを見て欲しい」と言っていたが、その言葉通り、息を呑むような見事なブルーだ。光りあふれる世界を象徴するような水色とも青とも言えないなんとも美しいブルーだ。

 港まで戻ると、
「今日の夕食は6時半から、昨日ロギングしたトコで」
「今日はナイトが無いから器材は置いていってもいいョ」と村田さん。
ワイフはやたらレギュがフリーフローするんで「塩抜きしたい」と言うので、私のと二人分のレギュと3点セットを持って民宿に戻った。

キャノンの加藤さんから教わった海水浴場まで行こうとしたがチョット遠そうなので、クジラの公園の先にあった小さな浜で一泳ぎしてから、民宿で一息ついてサービス直営のパブ「アルデバラン」へと向かった。
 座間味の集落は海から山へ向かう何本かの幅広の道をつないで細い路地が幾本か走っている。もちろん車なんか通れない。そんな路地のうちの一本を通ってブラブラと歩く。下は砂地だ。夕方になって庭木にホースで水をやっている家がある。セミの声がやかましい。傾いても、まだ陽射しは強い。