帰りたい、帰れない(2000年7月28日)


帰る予定の7月28日 午前9時、座間味村役場からの放送が聞こえてきた。

「本日のクイーンざまみ、フェリーはすべて欠航致します」

「…………」
「ウェ~!」
「ダッメダァ~」
ある程度予想していたとはいえ現実を突きつけられると流石(さすが)にガックリとくる。
NHKの朝の天気予報を見ていても台風6号は沖縄の北でほとんど停滞。久米島に強風警報が出ているんじゃ仕方が無い。
昨日かろうじてフェリーが1便だけ運航されたので、「昨日より今日はきっと良くなる」とチョッピリ甘い考えが脳裏をよぎっていたのだが、天候は昨日より雨、風とも状況が悪くなっている。

で、帰りの飛行機の予定が午後4時15分那覇発のANA便だったので、昨日のうちに夜の遅い便に変更しておいたのだが、那覇まで帰る船が出ないんじゃ話しにならない。
早いほうが良いと思いANAの那覇支店に電話を入れる。
「今日の夜の便に予約変更してあるんですが、那覇へ戻れないんで、明日の同じ時刻の便に変更できますか?」
「空きがありますので大丈夫ですが」
「じゃ、明日の同じ便に変更して下さい」
こうして、あっさりと飛行機は1日遅らせる事ができた。これは個人で航空券の手配をしていたお陰かと思う。どこかのツアーを使ってきていると、ツアー会社に連絡してそこからの指示に従うことになるのだと思う。
まさか座間味から那覇へ戻れなくなるなんて予想もしていなかったので、少々ストレスだ。
職場へ電話して事情を説明し、休暇を1日延長してもらった。

「ブラブラしててもしょうがないから潜りに行きまヘンか?」
オーナーの誘いにワイフは早速賛成。私は「沖縄リゾート」さんのPCをカスタマイズする事にした。
去年の5月に来た時HPの立ち上げにイッチョガミして以来、ここのPCの面倒を少しだけみてきているので、今回はHP作成の便利ツールソフトを持って来ている。
私は、ことコンピュータに関しては30年のプロなので、こういったPCカスタマイズ作業はまるで苦にならない。

こうしてワイフは「ビデオ撮ってくる~」と言ってダイビングに出かけ、こっちは横浜から持ってきたソフトのインストール作業で1日を過ごす事になった。
その日の夜。例によってパブ「アルデバラン」で食事&ロギングの時にオーナーから
「明日も船はどうなるか分からんから、最後の手段でチャーター機を予約せぇへんか?」
との提案があった。
「えっ? 飛行機チャーターできるんですか?」
「で、チャーターっていくら掛かるんですか?」
「1機6万3千円ヤ」
「人数で頭割りすればエエンや」

すると、昨日かろうじて動いたフェリーでやって来たHさん親子が、
「どうしても明日ニューヨークまで帰らなければならないので」と最初に手を挙げた。
「うちらもノッタ」と我々夫婦も手を挙げた。
「船が出ないんじゃ」と、他の5人も賛同した。
足止めを食っている9人で頭割りすれば一人7千円となる。

翌29日。
チャーター機はRACが離着陸しているケラマ空港から出るというので、飛行場のある隣の島までオーナーのフリッパーで送ってもらう。
定期船は今日も全便欠航している。
しかし…
予定の10時半を過ぎて那覇から飛んできたチャーター機は強風のために着陸できず、ブーンというプロペラ音を残して無情にもそのまま那覇へと引き返してしまった。

仕方なく座間味へと引き返す一行9人。ほとんど無言。結局この日はRACも全便欠航した。

あわててANAの那覇支店に再度電話を入れる。
「今日の予定、明日30日の羽田行きに変更できませんか?」
「16:15発に少し余裕がありますが」
「そ、それ、お願いします!」
またもや個人手配の威力を発揮。

職場へも再度電話して、さらに休暇を1日延長してもらう。

翌々30日。
ゴォーという地鳴りのような風の音と、バラバラッと窓をたたく強烈な雨の音で目がさめた。牛歩戦術を使っているかのような遅い動きの台風6号のおかげで、島から一歩も動けなくなって2日目の午前2時。(もしかしたら今日も帰れないのかなァ)と、だんだん弱気になってくる。突然ピカッと閃光がひらめいたと思ったらガラガラッと雷鳴が轟いた。

3泊4日の日程で座間味へダイビングにやって来たのが7月25日。26~27日は予定通りのダイビング三昧で明け暮れたのだが、帰る予定の28日になってから天候がどんどん悪くなってきた。チャーター機で帰ることに決めたので、ダイビング器材は昨日の朝宅配に出してしまった。

そして昨日と同じパターンで隣の島の飛行場へ。相変わらず時折強い風が吹く。
そして那覇へ帰るチャーター機は15分遅れて、今日は無事に着陸した。
「ヤッター」
「帰れるゥ」
わき上がる拍手。
空港の待合室から息を飲んで見守っていた仲間たちから安堵のため息が漏れた。

やって来た飛行機はRACが使っている飛行機と同型で機長を入れて10人乗れる。機内はかなり狭い。

チャーター機は全員が乗り込むと盛大な爆音を轟かせて直ぐに離陸した。
眼下に見える慶良間の島々に別れを惜しみ、飛行機は約15分のフライトで那覇空港に降り立った。