阿真ビーチ沖、東中(トナカ)と初ナイトダイビング(2000年7月26日)


イッチ、ニィ、サン、シィ… 
「沖縄リゾート」ではボートに乗る前に必ず体操をやることになっている。
体をひねったり回したりする度に「ポキポキ」と音がする。これがまた気持ちイィ。手首、足首を良く回して、ボートに乗り込んだ。
座間味へは去年の5月以来、久しぶりだ。去年と相変わらず港内はエメラルドグリーンに染まり、南の海は実に気持ちが良い。

1本目 阿真(アマ)ビーチ沖

港を出て、ものの5分と経たないうちに到着したポイントが「阿真(アマ)ビーチ沖」。強風で少し波打つ水面を透かして底に点々とするサンゴの根が見えている。
いつも初日の1本目って少し緊張するのだが、今回はそうでもない。今日は水中でビデオを撮ろうとDIVで作ったハウジングにソニーのPC-100を入れての進水式だったので、意識がそちらに集中していたせいかも知れない。

「オーナー、エントリーしたらこのビデオ渡して下さい」
と、村田オーナーにお願いしてザンブとジャイアントでエントリー。
ワイフは自分のヘソクリで買ったオリンパスのデジカメ(C-3030Zoom)を大事そうに抱えて一足先に潜降していった。
「痛さん、こうして真っ直ぐにして持って行ってヤ」
ボートの上からビデオを手渡しながら大阪出身のオーナーが教えてくれる。とにかく初めてビデオを水中に持って入るのだから何もかもが初体験なのだ。
言われた通りにハウジングを立てたままの格好で潜降を開始。下の方ではガイドのチーちゃんが待っている。

全員集合してチーちゃんを先頭に移動を開始した。
チーちゃんは「沖縄リゾート」では一番長い、女性のスタッフだ。はたで見ていても指導が厳しそうなオーナーの下で良く続いている。

移動を開始して直ぐに大きなエダサンゴの根にやってきた。浅いせいか、近くにいる台風の影響か、透明度は20m位と座間味では良くない部類だが、おなじみのカラフルな魚たちがたくさん舞っている。早速ビデオのスイッチを入れ、撮影に取り掛かる。

フタスジタマガシラがハッキリした色合いを誇るかのように泳いでいる。
手のひらサイズのクマノミが、せわしなく棲家(すみか)のイソギンチャクを出入りしている。
ハマクマノミや、セジロクマノミもそれぞれの家庭を守ろうと必死に威嚇してくる。
チョットしたエダサンゴの根はデバスズメダイ、リュウキュウスズメダイの絶好の隠れ家だ。

あちこちをビデオの液晶画面越しに覗いては録画ボタンを押すのだが、自分でもポイントが無く散漫な画面を撮っているのが分かる。(難しいモンだなァ)などと思いながら、それでも魚を追いかける。
「フッ」と気が付いて(水没してないよなァ)と、ハウジングをこねくり回して見てみるが、大丈夫のようだ。

突然、魚影が濃くなったのでその方角を見ると、コブシメが1杯舞っていた。
砂地に目をやると20cmはあるトラギスが目つきも悪くじっとしている。
アンカーロープまで戻ってくるとセグロチョウチョウウオがペアで泳いでいたのでしばらく付き合って一緒に泳ぐ。

こうして、いつかTVで見た水中映像を脳裏に描きながら40分ほど撮影していると、だんだん画面が曇ってきた。
(ワァ! 曇っちゃった!)
ビデオカメラのレンズの部分を見てみるとハウジングの内側が曇っている。
(やっぱシリカゲル入れなきゃダメなんだ)
仕方が無いのでビデオはここまでと諦めて、マクロ系のウォッチングをすることにした。と、いってもキレイなウミウシがたやすく見つかるはずも無く、サンゴの裏側や、地肌の出ている岩の壁を見て回っているうちに残圧が50となったので上がることにした。

最大深度 -11m
平均深度 -8.4m
水 温   27℃
潜水時間 60分
◇ ◇ ◇ ◇ ◇

2本目 島中(トナカ)

タンクの交換のため一旦港へ戻って小休止の後、2本目に出発した。
「やっぱりシリカゲル入れないとダメですネ」
と、村田オーナーに話しかける。
「そりゃ、そうや」と、オーナー。
「それと新しいうちは曇りやすい。ハウジングのゴムとかビデオ本体からガスが出る」

ハウジングを手に取って見てみるとレンズの部分にまだ少し曇りが残っている。これでは持って行っても直ぐに曇るので、2本目はビデオを置いて行くことにした。
「じゃ、このカメラ持って行ってくれる?」
と、ワイフ。「2本目はジックリと潜りたいからイヤダ」と無下に断ってエントリーした。

今日一緒に潜っているのは我々の他に、愛知から来たと言う女性トリオと、東京からの若い男女のペア、それにやたら元気の良い女性と、今日帰る予定が台風で那覇への船が全便欠航したために帰れなくなった神戸の青年。
内海は風は強いが潜るのに何の支障も無いのだが、座間味の外海は5m以上の高波で定期船が全便欠航している。沖縄を左回りに回って今はほとんど停滞している台風6号の影響だ。今朝帰る予定だった神戸の青年は宿にいても仕方が無いので、ダイビングをすることに決めたらしい。

エントリーして直ぐに見事なエダサンゴの山に案内された。キンギョハナダイが我が物顔で群れている。セジロクマノミ、ハマクマノミ、カクレクマノミ、クマノミと、ここでもクマノミ三昧だ。

2年前、エルニーニョ現象でサンゴが死滅(白化)したことがニュースで報じられたが、座間味のサンゴは奇跡的に生き延びている。時折差し込む陽の光が帯となってサンゴを照らし、色鮮やかな小魚が群れている様は大自然の神秘以外の何ものでもない。
そして、ほとんど流れも無い明るい水中を「ふわふわ」していると、眼下のサンゴに群がる魚になったようで、すこぶる平和な気分に満たされる。

ゆっくり、ゆっくりと回ってアンカーロープの所まで戻ってくるとフリータイムだ。大きく張り出した岩の下に太いヤガラがいた。そこから少し離れたところにツバメウオに似たアカククリがゆったりと泳いでいる。このあたりは残念ながらサンゴが死滅してしまったようで、チョット荒涼とした風景が展開している。しかし、所々にあるイソギンチャクには必ずと言っていいほどクマノミが住み着いていて、それが救いになっている。

チョウチョウウオ系は数が多すぎて、とうに意識から外れている。

最大深度 -8m
平均深度 -7m
水 温   27℃
潜水時間 69分

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

3本目(ナイトダイビング)

お昼をとっくに過ぎた午後2時過ぎに2本目をあがって宿に帰ってきた。宿と言っても我々が泊めてもらっているのは「沖縄リゾート」さんの1階和室。ザッとシャワーを浴びると近くの「スーパー105」へ昼ご飯用の弁当を買いに出た。「スーパー105」は座間味で1軒しかない雑貨屋さんだが、食料品から日用雑貨まで必要な品物がほとんど揃っていて大変便利だ。しかし、今日は定期船が入らなかったせいかパン類の棚は空っぽで、弁当もほとんど残っていなかった。
仕方が無いので最後の一個となっていた弁当を買って、ビールとお茶を買って外へ出た。
「ハンバーガー買って帰る」とワイフが言うので、ブラブラと港の方へ歩いて行き時々寄る店へ行ってみた。が、ハンバーガーも売り切れていてアメリカンドッグならできると言うので、それを注文した。

今夜はナイトダイビングを予定している。
5年前にCカードを取ってから初めてのナイトダイビングだ。ワイフは以前から「ナイトをやるなら座間味」と決めていたようで念願がかなって嬉しそう。

オーナー手作りの夕食後、午後7時半出航とあらかじめ決められていたので、そそくさと支度(したく)をしてサービスの車で港へと向かう。
前々からナイトはやってみたいとは思っていたが、AOWの講習の時も無かったしズルズルとしてしまっていた。

そしてボートは予定通り港を出港。空はまだ薄明るい。
「暗いの怖いから明るいうちにエントリーした~い」
同乗している女の子の声が聞こえる。
港を出て数分でボートはポイントに到着。さっき2本目から帰るときに設置しておいたブイが目印だ。
早速ブリーフィングが始まる。ごく浅いところを40分かけて回ってくるとのことだ。

ブリーフィングが終わると、いよいよエントリー。あたりはすっかり暮れてしまった。
レンタルした水中ライトを片手にザブーンとジャイアントでエントリーした。そのままヘッドファーストで一気に潜降してしまう。身の回りは真っ暗。手にしたライトから海底に向かってビームが1本、スジになって放射されている。-8mの着底カ所だけが皆を待っているチーちゃんのビデオ用ライトの光でボーッと明るい。

どこに誰がいるのか分からない状態で、ブリーフィング通りチーちゃんを先頭に動き出した。夜の海はとにかく「真っ暗」水中ライトのビームだけが頼りの世界だ。泳ぎ回る小魚の姿も無いし、代わりにガンガゼの妙に赤っぽい刺がやたらに目につく。
(こりゃ、手をつくところを事前に確認しなくちゃ危ないナ)
そんなことを考えながらあたりをキョロキョロしていたら、いつの間にかオーナーの後ろに付いていた。
気が付くとオーナーの横には「ちゃっかり」とワイフがいる。

手のひらよりも大きなヤドカリがライトを当てられてウロウロしている。
ブダイが寝ている。
急にライトを当てられ、あわてて逃げようとした魚が何度もサンゴに頭をぶっつけた。
真っ黒な外套膜を開くと下から真っ白な貝殻が現れたウミウサギ、数本のライトに浮かんだハナイカ。

人間の習性って面白いもので、明るい場所に集まってくるらしい。
オーナーが夜の海の中、色々と見つけて写真を撮ったりするものだから、被写体見たさに他の人が集まって光の輪ができて、いつの間にかオーナーの後をみんなでついて移動する格好になってしまった。

しばらくしてオーナーが「ライトを消すように」とシグナルを送って寄越した。
全員のライトが消え真っ暗闇になると、目の前で夜光虫のキラキラとしたブルーっぽい光が舞った。
手のひらで目の前をかき回してみると、グリーン、ブルーといった感じの小さな点が無数に光っては消えてゆく。
全員が思い思いの方法で海の中をかき回しはじめた。

その度に無数の光が点滅を繰り返す。

最大深度 -8m
平均深度 -5.6m
水 温   27℃
潜水時間 53分