白崖(シラガケ)、三角(さんかく) 1999年7月31日


 オーナー手作りの朝食を摂りながら、雑談交じりに今日の予定を確認する。午前9時頃に「わだつみ」の車で戸田(へだ)の港まで行きボートで外海へ出て1本潜る。昼食は海の家などで適当に摂って、午後2本目を潜ってペンションに戻る。今日1日のおおまかなスケジュールだ。ボートは1本目は我々だけでオーナー貸切り、我々のためだけのダイビングとなる。ラッキー! 2本目は三島のショップからのツアーが同乗する。

 ペンションで水着に着替え、メッシュバッグごと器材を「わだつみ」の車の荷台に積み込むと出発だ。荷台には既に今日の分のタンクが積まれていた。

 ボートに乗り込むと早速器材をセッティング。今日はアルミの11.5リッターという少し長めのタンクを使う。我々がセッティングしている間にボートは1本目のポイント目指して走り始めた。

1本目。
 今日の1本目のポイントは「白崖(シラガケ)」。戸田(へだ)の湾を出て正面に富士山を見ながらボートは進む。やがて大瀬崎の先端近くまで来て係留。「わだつみ」さんのボートはエントリー・エキジット用に後部が水面位置まで開口しているタイプ。畳1畳ほどのスノコのステップが水面に突き出ている。
「透明度が良くないので潜降ロープでエントリーして下さい」
「エキジットの時は先にウェイト、タンクの順に渡して下さい」
「残圧60で教えて下さい」

 ブリーフィングを受けていよいよエントリー。ジャイアントストライドでザブンと入った。

 入ったは良いのだが-14mで着底するまで見えるのは潜降ロープだけ。1mほど下に居るワイフの姿が「ぼんやり」としている。水面は流れていたが、底はほとんど流れを感じない。

 集合して横尾オーナーが「行こう」とシグナルを寄越す。10mほど移動して突然来た道を戻る。(中性浮力が取れるかどうかチェックしたな)と思いつつオーナーの後に続く。そしてごろたの縁(ふち)から一気に深度を下げて行く。-25mあたりまで降りてきて透視度はようやく10m位になった。でも暗い、水中ライトを取り出した。

 岩陰にマツカサウオがいる。メジナが二匹じっとしている、と、大きな岩の向こう側に数匹の群れが居た。-30mまで降りると長いヤギがパラパラと生えていた。その間を手のひらサイズのマトウダイがゆったりとしている。マトウダイは体のほぼ中心に目玉のような黒い丸印があるので見分けやすい。弓矢のマトのようなのでこの名前が付いたというのだが、まだ生態が良く分かってなくて水族館で飼えないのだそうだ。

 「ピピッ」と音がしたので左腕のダイコンを見た。が、無減圧の残り時間はまだ数分ある。横に居たワイフが不安そうにこちらを見ているので彼女のダイコンを見せてもらうと既に無減圧時間がタイムアップしていてワイフのダイコンが警報を発したのだと分かった。深度は-33m。少ししてこちらのダイコンも無減圧時間が過ぎたことを知らせる警告音が「ピッ」と鳴った。ややあってオーナーのダイコンも「ピピッ」と警告音を発した。

 オーナーがこちらを見てダイコンを指差すので、「限界」とサインを返す。それを見てオーナーから「浮上」のシグナルが来る。10mほど上がってダイコンを見ると無減圧の残り時間が復活していた。再びオーナーから「ダイコンチェック」のサインが来たので「OK」を返す。そのまま-15mまで浮上してしばらく遊ぶ。

 やがてこちらの残圧が60になったことを知らせると、浮上のサイン。ダイコンは安全停止3分を指示しているので従う。



◇   ◇

 港へ戻ると2本目のセッティングを終えてから昼食タイムとなった。オーナーは何かの準備があるようで「わだつみ」へ車で帰って行った。
 前回来た時は10月で、このあたりも閑散としていたけど今は夏休みの真っ盛り。岸壁から続く浜は海水浴客で満杯だ。昼食は砂浜にも海の家が何軒か軒を連ねているが、砂浜まで行かず岸壁の外れにある店に入った。海の家だし大したメニューもないのでヤキソバを注文、ワイフはエビピラフを注文した。そしてすさまじい暑さなので食後に「かき氷」も追加した。
◇   ◇

 集合の1時になってボートへ戻ると、2本目を一緒するショップツアーの人達が既に乗船していて賑やかである。若い女性が6人位とやはり若い男性が1人のグループである。それに20代に見えるイントラさんが1人ついている。

 しばらく待ってオーナーが戻ってきて、2本目へと出発。

 ボートが動き出すと早々にウエットを着込む。とにかく日差しが強くって露出している肌がチリチリと痛むのでウエットを着ていた方が楽なのだ。
 2本目のポイントは「三角(さんかく)」、1本目よりブイが1つ戸田港に近い。

 ポイントに着くとオーナーが「先に行け」とせかす。どうやらショップツアーとは別行動を取るようだ。オーナーに言われるまま真っ先にエントリーし、-14mで着底した。相変わらず透明度は良くない。3mほどである。着底して直ぐに30cm位のイラを見つけた。

 やがてワイフが降りてきて、続けてショップツアーの女の子が降りてきた。ここは少し流れていて、女の子は体勢を立て直そうと手足をバタつかせている。3年前の自分を見るようで妙に懐かしい。その子に「落ち着いて」とマスク越しに視線を合わせて両手でサインを送る。「OK」サインが帰ってきたので大丈夫だろう。

 ややあってオーナーが降りてきて移動を開始。ゴロタに沿ってゆるゆると降りて行く。向かった先は根と呼んでもいいような大きな岩。オーナーはその岩に取り付いてゴソゴソやっている。そして手招きされて近づいて見るとチョットした窪みにイザリウオが二匹埋もれている。奥に居た白いイザリ君は2cm位、手前の岩に擬態しているのは5cm位のサイズである。ワイフに場所を空けようと後ろへ下がる。後で聞いたら窪みの少し下にもう一匹いたのだそうだ。ワイフは確認したようだが、こちらは見損なった。

 イザリ君を見終わった頃にショップツアーの一団が到着。あたり一面に浮遊物が舞い上がり急に見えなくなった。

 これはたまらん、と、その場を離れフワフワと移動。別の岩でオーナーがトサカをいじり始めた。ここでワイフはガラスハゼを発見、一人占めした。

 帰り道は流れに逆らう格好になった。頑張ってフィンキックしないと進まない。エアがあっという間に減って行く。残圧60になってオーナーに知らせる。相変わらず流れに向かっての移動が続く。ワイフは(遅れるゥ)(私を置いて行かないでェ)と必死になってくる。オーナーが振り向いて指を3本立てる。ゲージを見るとピッタリ残圧30。「そうだ」と答える。

 しかし透視度3m以下の濁りの中でなかなか潜降ロープが見つからない。表層はかなりの流れが有ったから、このままボートから離れて上がったらボートへ戻れない。-14mあたりをジグザグに往復してようやく潜降ロープが見つかった。残圧が厳しかったので潜降ロープ沿いに直ちに浮上。ダイコンを見ながら浮上したが安全停止は出なかったので、そのまま水面へ上がってしまった。

 ボートに上がると、先に浮上していたショップツアーのメンバーがパニックになっていた。
「一人流されたんですゥ」
「イントラがマスクとフィンだけで追いかけて行ったんですけど…」
どうやら浮上してからエキジットの順番を待っている間に水面を流されしまったらしい。全員がエキジットすると、オーナーは落ち着いたもので
「それじゃ迎えに行きましょう」

 流された女の子に追いついたイントラさんは隣のブイに掴(つか)まってボートが迎えに来るのを待っていた。