沖根(オキネ)、小平床(コビラトコ) 1999年7月29日
今朝は田子(たご)の民宿「福由丸」さんの一室で朝を迎えた。ここはダイビングサービスも兼ねていて、今日から2日の予定で田子の海をガイドしてもらう事になっている。でも、昨夜は窓の下の国道136号をときおり通る車のロードノイズと、天井からのエアコンの音で2時間おきに目が覚めて良く眠れなかった。
朝食を済ませ、午前9時過ぎに田子の港へと向かう。港へは自分の車で移動なので忘れ物の心配も無いし便利だ。漁協の駐車場なのか、岸壁近くの数台置けるスペースに車を置くと早速器材の入ったメッシュバッグを降ろした。
今日から2日間、田子の海をガイドしてくれるのは石田さん、決して若くはない。我々とそう年は離れていない海の男だ。
メッシュを車から降ろしたのは良いのだが、ここは初めてなので勝手がわからずウロウロしていると昨日から来ている寺本さんご夫婦が親切に色々と教えてくれる。メッシュバッグから器材を取り出すとウエットとブーツ以外の物をボートに運び、先にセッティングをしてしまう。タンクはスチールの10リッター、はかまを履いていて太(ブット)い。ワイフは今回が50本目のダイビング、BCも下取り交換してから初めて使う。「メッシュは必要ない」と言われて車へ置いてきた。
器材のセッティングを済ますと一旦ボートから降りて、ウエットを着込む。ボートにはタンクを立てて置くタンク径に合わせた器材置き場はあるが、人がウエットを脱ぎ着するスペースは無い。
今日は朝からピーカンで頭上からは容赦なく夏の太陽がふりそそぐ。昨夜の寝不足のせいかボーっとしている。
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やがて1本目。
ボートは軽やかなエンジン音を響かせて田子港の外へ出た。とたんにがぶって来る。はるか沖縄を通過した台風6号の影響で、外海はうねりが残っている。しかし、ボートから見る海の色はやや明るいブルーをしていて気持ちが良い。
10分は走ってないだろう、1本目のポイント「沖根(オキネ)」に着いた。ポイントへ到着する直前、ガイドの石田さんからブリーフィングを受ける。そしてポイントに着くやボートの上は急に慌ただしくなった。
「準備のできた人からエントリーして下さい」
「集合はブイを繋いだ潜降ロープの下」
石田さんも騒がしくなってくる。
今回一緒に潜るメンバーは、神戸からおいでの寺本さんご夫妻、東京からここ数ヶ月田子に通いつめている村上さんご夫妻、それと我々夫婦の6人。我々以外の方達はここのシキタリに慣れているようで、ポイントに着く前に既に準備が整っていてさっさとバックロールでエントリーして行く。我々はようやくタンクを背負いの、フィンを履きの、マスクに曇り止めを塗りの、でしばらく遅れてエントリー。それも夫婦揃って見事な水中一回転バックロール。
ブリーフィング通りに潜降ロープを手繰りながら潜降するが、濁っていて下がほとんど見えない。-8mで着底してようやく透視度3mあるかないか。おまけに浮上待ちの他のグループと入り乱れて着底場所はチョットしたパニックだ。が、我々の姿を認めてガイドの石田さんが動き出した。
動き出すと一気に-26mまで潜降して行く。徐々に透視度も回復してきて5~10mほどだろうか。キンギョハナダイの群れに突っ込んで行く。ここのポイントは実に不思議な気分になる。海の中の景観、色彩は紛れも無く「伊豆の色」をしているのだが、群れている魚は妙に「トロピカル」している。その上、魚影が濃く、ゆったりしていて飽きが来ない。ビッグサイズのミギマキやタカノハダイが数匹悠然としている。
少し強い流れを感じて岩を伝いながらの移動となった。途中のサーモクラインでヒンヤリとして、そそり立つ壁の間を移動して、そしてドロップオフを下に見て。我が身の異変に気づいたのはこの辺りからだろうか? 目は覚めているのだが妙に意識が遠のいて、(気持ち良いなァ)と思いながら石田さんの後を追っていた。ネンブツダイの群れに囲まれて手で払いのけた記憶がある。
1本目が終わってからワイフに
「どうしたの? 初心者みたいにゴソゴソ這い回っちゃって」
と言われたが、本人にはそんな意識はなく、
「えぇ? そうだったの?」
「なんだかスッゴク気持ち良くって、何も考えていなかった」
としか答えようがなかった。どうやら流れが無くなっても中性浮力を取らずに岩伝いしていたらしい。夕べは寝不足だったから、やっぱりこれって水中で目を開けて眠ってたのかなァ。
エキジット直前に手のひらサイズのクマノミがいた。この子は越冬組みだそうだ。座間味にはこのサイズのクマノミはいたる所で見るが、西伊豆に居るなんて。
そんなで、あっという間にエントリーポイントまで戻ってきて、潜降ロープを逆にたどって3分の安全停止の後エキジット。エキジット方法もここのスタイルはフル装備のままボートへのハシゴを登る。外海は時として強い流れがあるので万一に備えての処置のようだ。しかしフィンをはいたままステップを登るのは、やりにくい。
全員がエキジットするとボートは港へと引き返し始めた。
EN.10:42 EX.11:13 潜水時間:31分
最大水深:28m 水底水温:18度
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港へと戻って一息つくと、
「昼食に行きましょう」と石田さん。
あわてて昼食代にと財布を取りに車へ戻り、みんなの後を追う。昼食は港の近くのソバ屋のような中華料理屋さん。それぞれ勝手にオーダーする。椅子に座るととたんに睡魔が襲ってくるが、頑張ってチャーハンを注文した。ワイフはこの暑いのにラーメンを注文している。
食事が終わって店を出た。が、石田さんはじめ誰も食事代を払おうとしない。
「ダイビングフィーにランチ食べ放題ってなっていたのは、このことだったんだ」
「でも食べ過ぎると2本目がつらいよね」
太陽は真上から我々を照らしている。港へと戻ったが日陰が無い。
2時間ほど水面休息したところで
「そろそろ2本目のセッティングをしましょうか」
と石田さんが動き出した。
新しいタンクをセッティングして、熱くなったウエットを着て1本目と同じようにボートに乗り込む。メンバーも1本目と一緒だ。
やがてボートが走り出すと
「2本目は小平床(コビラトコ)というポイントです」
「1本目と同じように潜降ロープを使って潜降して下さい」
「集合は潜降ロープ下です」
1本目がかなりマゴマゴしていたので、2本目はポイントに着く前にタンクを背負って準備していたにもかかわらず、やっぱり我々夫婦が最後にエントリーするハメになっていた。(もうボートが走り始めたら器材を着け始めるっキャないね)などと思いながらバックロールでエントリー。ブリーフィング通りに潜降ロープを掴んで潜降を始めた。
ここのポイントも濁っていて潜降ロープの先が見えない。-9mほどで着底して移動を開始した。ガイドの石田さん、徐々に深度を下げながら大きな根を左に巻いて行く。ネンブツダイやらイシモチといった小魚の群れがあちこちに見られる。透視度は-20mで10~15mに回復した。でも中層の濁りのせいか暗い色が続く。
しばらく進んでから-14mほどに上がってきた。コースは相変わらず左巻きに根を回っている。石田さんの良く目立つ黄色いバイオフィンが見え隠れしている。あまり流れは感じない。
1本目は半分居眠りをしていたようなダイビングだったので、2本目はしっかりと水中ライト片手に密かにウミウシを探して回った。どこにでも居るアオウミウシは嫌でも目に入るが、他の種類となると探し方も下手なのだろう、なかなか見つからない。3cmほどのアイボリーにオレンジの斑点が入った奴を見つけたが名前はわからない。岩陰や壁を水中ライトの光を這わせていて、フッと頭を上げると回りに誰も居ない。(あれれ?)と見回すとワイフが5~6m先を行くのが見えてあわてて追いかける。
そんなことを二度三度と繰り返しているうちにエントリー場所へと戻ってきた。残圧はまだ80くらいある。根の上でしばらく遊ぶ。
そして根をぐるりと一周してきた所で潜降ロープを逆にたどって-3mで3分の安全停止後エキジット。
EN.13:49 EX.14:26 潜水時間:37分
最大水深:26m 水底水温:18度
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港へ戻ると器材をザブザブと洗って適当に干す。そして、ロギングタイムへと突入したのだが、ここで問題があった。我々はてっきりログ付けは宿に戻ってからと思い込んでいたので、ログブックを民宿「福由丸」さんに置いてきてしまったのだ。
「ま、いいね」
「部屋に戻ってからつけよう」
と、ロギングには口と記憶だけを参加させた。