マンタ 2001年8月26日
今朝は午前5時に目が覚めた。
日の出を見にワイフとビーチまでカートを飛ばす。
飛ばすといってもアクセルをベタ踏みしても時速20km以上は出ない仕掛けになっているのだが…。
今朝の沖合いは雲が多くてキレイな日の出は見られなかった。
それでも上空は晴れている。
あたりは生暖かい南国の空気で満たされている。
再び家族揃っての朝食後、息子たちはプライベートビーチで遊ぶことになり、我々はファンダイビングに出かける。
そして昨日と同じ手順で9:30の迎えのバスで港まで送ってもらい、岸壁に係留されているボートに乗り込んだ。
今日のガイドも山口さん。
でも、今日は我々二人の他にゲストはいない。
ボートに乗り込んでボーッと水面を見ていると
「サァー」
と、今日も元気な山口さんの爽やかな声が降ってきた。
「今日は約束どおりマンタ狙いで行きましょう」
「川平の石崎マンタスクランブルへ行きます」
「でもマンタが出なかったらタダの石崎スクランブルになっちゃいますネ」
「ポイントまで約45分です」
などと今日のスケジュールのアウトラインを説明し始めた。
港を出るとボートは小浜島を左に見ながらエメラルドグリーンの海を少し走り、やがて舳先(へさき)を遠くに見える石垣島の川平方面に向け青海原を疾走し始めた。
小浜島の方は晴れているのだが、石垣島方面の空は黒い雲が湧いている。
突然、山口さんが何か叫んだ。
彼が指差す前方左を見ると1m以上はあるバショウカジキが青い水面を数回ジャンプした。
∞
1本目 石垣島「川平石崎マンタ スクランブル」
ポイントに着くとスゴイ数のダイビングボートが係留されている。
(これ、みんなマンタ見に来てるんだ)
その数、十艘以上。
「ここはマンタがホバリングする根がポコ、ポコっていう感じで幾つかあるんです」
「根と根の間は20m位の深さがあって、そこはそこで面白いンですが、今日は長く潜っていたいンで底へは降りません」
「で、ここではマンタを見るのにルールを決めてます」
「追いかけない」
「触らない」
「根の上に上がらない」
「マンタはダイバーの吐き出す泡が当たると嫌がるみたいです」
「こちらに来る、と思ったらしばらく息を止めてみて下さい」
ブリーフィングの後、一足先にエントリーした山口さんに続いて我々もエントリー。
そのまま潜降して谷底を眼下に眺めながら-10mあたりの中層を目的の根に向かって泳いで行く。
昨日の海と違って透明度はあまり良くない。
ダイバーが多く入っているせいなのだろうか。
一つ、二つと根を渡り、一群のダイバーの群れを左の方に見る位置で落ち着いた。
落ち着いたところで周りを見回すとあちこちにダイバーが固まって盛大に泡を吹き上げている。
このあたりにも多くの小魚が泳ぎ回っているのだが、誰の目にも入らない。
多くの目はひたすらマンタを探している。
しばらく周りを見回していたら、やはり山口さんが最初に見つけた。
我々が取り付いている根と谷を隔てた正面の根の上に、うっすらとしたマンタの影が1枚ゆったりと右から左へ向かって泳いでいる。
見ているとそいつは左の方にいたダイバーの泡が嫌だったのか向きを変え、来た道をゆっくりと引き返し始めた。
が、途中まで戻ったところで今度はこちらに向きを変え、ゆっくり、ゆっくりと近づいて来る。
そして真っ直ぐにこちらに向かってやってきて、ほんの数mの所で我々の左斜めに進路を代え、グワァーという感じで目の前を左へ抜けて行き、そのまま左の根に固まっているダイバーの泡を突っ切って悠然と消えて行った。
トレードマークの尾は鮫にでもやられたのか、根元に30cm位残っているだけで無くなっていた。
マンタの優雅な舞いは、まるでスローモーションで見ているようで、しばらく唖然。
前回ここでマンタを見た時は遠くを通り過ぎるのを見ただけだったが、今度のは違う。
手を伸ばせば触れられそうな至近距離まで近づいてくれたマンタを見たのだ。
興奮覚めやらぬ状況でフト足元を見るとイソギンチャクの中から大小のハマクマノミが威嚇している。
マンタに夢中で彼らのテリトリーを侵害していたようだ。
しばらく遊んでいると山口さんが左斜め前方を指差した。
見ると今度は2枚いる。
左斜め奥からやってきて向きを変え15mほど先を右方向へと泳いでいる。
後ろにいる奴のお腹にはコバンザメよりはるかに大きな別の種類のサメがつきまとっている。
じっと見ていると今度は正面でこちらに向きを変え、我々に向かってまた真正面からやって来る。
(来る! 泡を出さないようにしなくっちゃ)
2枚のマンタはゆっくりと、ゆっくりと近づいて来る。
どうやら我々に興味を示したようだ。
進路を変えずにさらにゆっくり、ゆっくりと近づいて来る。
彼らは我々の正面2~3mまでやって来ると少し速度を落とした。
ジッと観察するように象のように可愛い目で我々を見ている。
目が合ってワイフが小さく手を振った。
ややあって彼らは我々の右側をかすめて右後方の根の方へまったりと泳いで行った。
先頭にいた奴は尾が切れていたのでさっき見た奴だろう。
後ろにいたマンタはやや小ぶりで、まだ子供なのかも知れない。
根の上をミスジチョウチョウウオが泳いでいる。
スズメダイの仲間が木の葉のように舞っている。
さらに粘ってみたが、その後マンタはやって来なかった。
エントリー:11時07分
エキジット:12時02分
潜水時間:55分
最大深度:13m
水温:31℃
∞
ボートに戻ってみるとエントリーした時にあれだけたくさん止まっていた他のボートの姿が無い。
「どうでしたかァ」
「マンタ出ましたねェ」と山口さん。
「私なんか目が合っちゃった」
ワイフが言う。
「あっ、それ、アイドルと一緒ですネ」
「目が合った気がするっていうヤツです」
と、山口さん。
「エ~、そんなこと無い!」
と、ワイフ。
「波の静かな所でお昼にしましょう」
そう言うと、山口さんはボートを発進させた。
石垣の島沿いに少し走った米原のキャンプ場近くでボートを泊め、昼食タイムとなった。
エンジンが止まるとピチャピチャという波の音、それに時折聞こえる鳥の鳴き声しか聴こえない。
朝のうち雲っていたが今はその雲も取れ、快晴とはゆかないが天気は晴れ。
ゆらゆらと小さく揺れるボートの上で昨日と同じ"ほっかほっか亭"のお弁当を食べる。
食後、ビデオのハウジングがどうも調子悪いのでSWをいじっていたら録画ボタンを押すためのシャフトが飛び出てしまった。
これじゃ水没が怖いので次は置いて行く事にした。
∞
2本目 石垣島「山原(ヤマバレ)」
「サァー」
と、いつもの掛け声一番、2時間近く水面休息を取って山口さんが動き始めた。
「静かなんで2本目はここを潜ります」
「ポイント名はヤマバレといいます」
「ここはタテキンの幼魚がいるので見に行きましょう」
「その他いろいろ探しながらゆきましょうか」
「潜水時間は45分プラスマイナス5分を予定しています」
「でも、なぜか延びちゃうんだよなァ」
などとブリーフィングを受けてエントリー。
今日はゲストは我々夫婦二人の貸切状態なので、エントリーすると直ぐに移動を開始する。
2本目はビデオを置いてきたのでノンビリとフィッシュウォッチングを楽しもう。
移動を開始してゴツゴツとした感じの枯れたサンゴの岩場を降りて行く。
目的の根は-20mの所にある。
根に着くと直ぐにブルーに白の渦巻きがかわいいタテジマキンチャマダイの幼魚が目に入った。
体長5cm位だろうか。
チョコマカと岩陰を動き回って落ち着きが無い。
コイツが成魚になるとまるで色と柄が変わってしまうのが信じられない。
ヨスジフエダイがゆったりとした動きであちこち群れている。
それも半端な数じゃない。
十数匹の群れがあちこちにいる。
砂地に近いところにアカヒゲカクレエビが長い触角を揺らしている。
お茶目なシマキンチャクフグがあわてて逃げて行く。
あっ、ユカタハタがさっきのタテキン幼魚を後ろからつついている。
小物が面白そうなので、この大きな根を丹念に見てまわる。
岩陰にヒゲの白いエビがいた。ガイドの山口さんも名前が分からないと言う。
イセエビの赤ちゃんか?
目を移すと白い砂地にはガーデンイールがちらほら。
と、どこから湧いてきたのか突然ナンヨウカイワリの大群が川のように流れて来た。
ザーっという音が聞こえてくるような大群だ。
そいつらは右の方向からやって来てひとしきり根を占拠したと思ったら、左の方向へと流れていってしまった。
「何だ? 今のは」
という感じのあっという間の出来事だった。
根の上を手のひらサイズの2匹目のタテキン幼魚が泳いでいる。
ちょっとした根の窪みに紫も色鮮やかなクレナイニセスズメがチョロチョロしている。
その窪みの奥にはウコンハネガイが赤い触手を揺らめかせている。
帰り道、ちょっとした洞窟風の岩の割れ目に入って行った。
暗がりには大きな目をしたホウセキキントキがじっとしていた。
ボートの近くまで戻ってきて、安全停止を兼ねた自由時間となった。
エントリー:14時04分
エキジット:14時59分
潜水時間:55分
最大深度:21m
水温:31℃