「城ヶ島」を再発見 1998年10月24日


<プロローグ>
 1998年10月24日(土)午前6時。ワイフと二人、愛車シビックで横浜の自宅を出発。向かうは3日前に予約した東伊豆・富戸のダイビングサービス「シーフロント」さん。いつもの様に横浜新道から国道1号線の原宿交差点を抜け、藤沢バイパス、新湘南バイパスを通って海岸沿の国道134号線へ。そして大磯から西湘バイパスへ入っていつものように国府西PAで小休止した。
10月に入るとさすがに海水浴の車もいないので、自宅からここまで約1時間でやってきた。

  そしてこれもいつものように、このPAで(自宅近くのコンビニで買ってきた)「おにぎりとサンドイッチ」の朝食を摂りながらFM横浜のマリン情報を聞いていたら「伊豆海洋公園は本日クローズ」と言っている。
「ナヌ? IOPクローズだと?」
実はここ数日、北東の風が強かったので昨日・おとといと富戸もクローズしていたことは事前に知っていた。
(まさか今日も富戸クローズなの?)

これは確かめてから富戸へ行こうと思い、早速PAから電話を入れてみると、
「エェ、クローズなんです」との返事。
「エッ? やっぱりダメですかァ」
と言う訳で、ワイフに「どうしようか?」と聞くと、
「さっきFMで城ケ島が透明度25mって言ってたじゃない」

で、急遽行き先を三浦半島の先端「城ケ島」に変更した。

<そして城ケ島>
 決めると直ぐに城ケ島で一軒しかないダイビングサービス「城ケ島ダイビングセンター」に電話を入れてみる。ここは去年の夏に一度潜ったことがあって、その時に携帯に電話番号を登録しておいたのが役立った。

 時計を見ると午前7時40分。
「今から行って潜れますか?」
「ほとんど波も無いし、大丈夫ですョ。どの位で来れますか?」
「今、小田原なんで2時間くらいかかると思いますが」
「じゃ、10時15分のボートに間に合いそうなのでそれに予約入れときます」
と予約も取れたので、西湘バイパスを海岸沿に三浦半島へと引き返した。

 小田原から海岸伝いに江ノ島、鎌倉、逗子と国道134号線を走ってピッタリ2時間で城ケ島に到着。運良く島の一番奥にあるダイビングサービスの目の前の県営駐車場に車も止められた。天候はシトシト雨、気温16℃。ウエットでは寒いかも…。
 早速受付を済ませ、受付のある建物から少し離れたタンク置き場で器材のセッティングをする。朝からの冷たい雨は容赦なく降り続く。

◇  ◇

1本目

 今日ガイドしてくれるのは神作(かんさく)さん。変わった名前で覚えやすい。

 漁船を改造したボートの出発時間まで間が無いとのことで、簡単なブリーフィングの後、桟橋まで器材を背負ったまま歩いてボートに乗り込んだ。

1本目のポイントは「岩骨(いわほね)」。
 ボートから順番にジャイアントストライドでエントリー。海底からロープで繋がれているブイに集合して、そのロープ伝いに潜降開始。透明度はざっと10m位。かなりきれいだ。ところがグループの最後に潜降を始めてヘッドファーストで5~6m行ったあたりで突然左耳が抜けなくなった。右耳はスコスコしているのに左だけ何か変だ。ガイドの神作さんが寄ってきたので(左耳が抜けない)とハンドシグナルを送って少し浮上して耳抜きをしていたら'ホコッ'としてようやく抜けた。神作さんにOKシグナルを返して再び潜降を開始、今度は順調に抜けて無事に着底した。

 着底して周りを見回すと、天候のせいで7~8m先は薄暗いのは仕方ないとして、かなりの数の魚が泳いでいる。地形的にも大きな根のまわりをゴロゴロと巨大な岩が囲んでいて、割と面白い。城ヶ島は横浜からだと2時間かからずに行けるほど近いのだが、なかなか侮(あなどり)りがたい。

 今回のグループは我々夫婦を含めて7名。他の5名は職場の仲間なのか和気あいあいと潜っている。

 全員揃った所で移動を開始して、最初にネンブツダイの大群に驚かされた。ブリーフィングの時に「千匹の単位のネンブツダイが群れている」と聞かされていたが、まさに嘘はなかった。ダイバーが近づいても逃げる風でもなく、かなりの密度のネンブツダイが我々のすぐ横をゆったりと群れている。

 大きな根を左に巻きながら移動して少し行った所でガイドの神作さんが岩の隙間を指して止まった。水中ボードに「タコの卵」と書いて差棒で隙間の上部を指している。一人づつ順番に覗いてみると穴の中にマダコとその卵が見えた。

 また移動を開始。ワラサが数匹足元を抜けて行く。
 次に止まった所には「タツノオトシゴ」がいた。ブリーフィングの時に「特に何か見たいものはありますか?」と神作(かんさく)さんに聞かれたので「まだタツノオトシゴ見たこと無いのでタツノオトシゴ」と答えたので探してくれたようだ。
 縦・横50cm、長さ2mほどの直方体の岩の側面、やや上部に海草に絡まるようにソイツはいた。大きさは5cmくらい、色は白っぽく、良く見ると確かにタツノオトシゴだ。TVで見ているとタツノオトシゴは全国で普通に見られるらしいのだが、現物を海の中で見るのは今回が初めてだ。

 タツノオトシゴをあとにして更に根を巻きながら移動する。
 途中キンギョハナダイygの群れに遭遇する。これもネンブツダイに負けないほどの大群だ。季節来遊魚のツノダシが一匹岩陰から泳ぎ出てきた。目の前でホンソメワケベラのつがいが絡み合っている。

 さらに移動を続ける。このあたりは魚ばかりではなく、ソフトコーラル系もチラホラ見られる。水温は24℃もある。

 最後にアライソコケギンポ(マー坊というニックネームがつけられている)を見て最大深度-20.8m、平均-15.6m、38分のダイビングをエキジットした。

◇  ◇

2本目

 1本目から上がったのが11時半で2本目は午後1時予定ということで、昼食は「おあずけ」となった。2本目のタンクをセットしてダイビングセンターの建物に戻っての小休止の後、12時半から2本目のブリーフィングが始まった。

 ガイドは同じく神作(かんさく)さん。2本目のポイントは「東島根(ひがじまね)」、城ヶ島大橋の近辺で、去年の夏に潜ったことのあるポイントだ。

 天候は相変わらず雨がパラパラ。気温16℃。ワイフと二人5mmウエットなのでポイントへ向かうボートの上で既に体が冷え切っている。ここはタンクを背負ったままボートで移動なので、上に何か羽織ろうにもやりようがない。今日の陽気でウエット組みは全体の10%位だろうか? 大多数のダイバーが既にドライになっている。

 ボートは10分と掛からずポイントに到着。さっきと同じく順番にドボドボとエントリー。同じようにブイに集合して潜降を開始した。
 さすがに2本目は耳の調子も良くなっていてスコスコと良く抜ける。潜降ロープが混雑していたのでロープから少し離れて一気に-15mの集合場所まで潜降した。

 「東島根(ひがじまね)」を去年潜った時は透明度が5m以下で潜降中は周りが緑色していたが、今日はチョットどころか大分違う。

 天候のせいで相変わらず薄暗いが、透明度はまずまずの10m。とりあえず透明な水がまわりを囲んでいる。

 集合して数メートル移動した岩の上に黄色のイロイザリウオがいた。体長は4cmほどで全身が黄色く、丸まっているように見える。一緒に潜っている5人グループのメンバーの一人がビデオ撮影するため、我々は少し見ただけで彼に場所を提供する。「もう少しジックリ見たかった…」とはワイフの独り言。

 イロイザリを後にしてしばらく移動。ここのポイントは巨大な岩がゴロゴロしている間に砂地が所々にある、といった感じ。前回潜った時はもっと海草が多かった気がしたので、まるで別のポイントにいる感じがする。40cmクラスのアイナメが岩と岩との隙間にいた。

 大きな岩の壁を左に回った所に小さな砂地があった。なにげなくその砂の上を見ていると青いものが目に止まった。近づいてみると体長3cmほどのアオウミウシだった。岩場にへばりついているのは良く見るが砂地を這っているのは初めて見た。きっと岩から飛ばされたのだろう。棲み家に戻ろうとしているのか絶望的な速度でノロノロと這っていた。

 隣にいた女の子にこのアオウミウシを教え、場所を空けるために左の岩へと体を移動したら、目の前の岩の隙間に15cmほどのフサカサゴがジッとしていた。不思議なもので一瞬こいつと目が合った気がした。完全にあたりの岩に擬態していたのだが、ビビビっと感じるものがあって見つけたのだ。

 このあたりは透明度が極端に落ちた。5mあるかどうかだろう。一つには砂をフィンで巻き上げられたことも影響している。

 次に行った場所はダテハゼとテッポウエビの共生が見られるという砂地だ。別に伊豆界隈でも珍しくは無いのだが、「巣穴の外で見張り番をしているダテハゼの尾びれが、テッポウエビへの危険を知らせる役目をしている」とブリーフィングで聞いたので、全員で巣穴を探して観察することになっていた。透明度は8mくらいだろうか。
 ガイドの神作さんから「ここから先がその砂地です」とのサインをもらって、直ぐに探し始めると、なんと目の前でダテハゼが巣穴を守っているのを発見した。30cm位に近づいて穴の入り口を見てみるとテッポウエビの触覚が見えている。ダテハゼが時々尾びれをピクピクさせるのは危険信号をテッポウエビに伝えているのだそうだ。しばらく見ていて水中ライトの光ををダテハゼに当てたら、アッという間に巣穴に隠れてしまった。

 仕方なく顔を上げてあたりを見回すと、みんな冷たい。さっさとその場を引き上げて危うく「置いてきぼり」を食う所だった。

 またしばらく左回りに移動して紫色のウミトサカを物色している神作さんに追いついた。ガイドの神作さん、しきりとウミトサカの枝の部分を指している。良く見ると目玉が枝をアチコチへと動いている。体長1cm以下の小さな小さなガラスハゼがチョコマカと枝を移動しているのだった。あんまり小さいのでチョット見ただけで他の人へ場所を譲って、何か居ないかと近くの岩の壁をライトで照らしていたら、岩の隙間にサラサエビが4~5匹かたまって隠れていた。

 一通り全員が見終わってまた移動。
 その途中、ワイフから「これを見て」とのサインが来た。指差す方を見てみると単独のイカが砂地のすぐ上をフワフワしている。体長25cm、体幅10cmのコウイカだ。伊豆の富戸で体長10cmほどのは見たことがあるが、コイツはデカイ。別に我々を警戒するようでもなくフワフワと漂っていた。

 そして最大深度-20.6m、平均-16.5m、46分の2本目をエキジット。

◇  ◇

<プロローグ>
 浮上してボートに上がってからはウエット組みは「ガマン大会」の状態だった。ただでさえ気温が16~7℃しかない上に帰りのボートの上ではタンクを背負ったまま風になぶられ続け、体感温度は一気に下がったことは言うまでもない。水底では24℃あったので、ほとんど寒さは感じないのだが、浮上してからが大変だ。
 気の遠くなるような時間をガマンして器材をバラスとシャワールームに駆け込み、熱い湯を頭からかぶってようやく人心地ついた。
 そして全員揃ってダイビングセンターの直ぐそばにある磯定食屋「いけだや」さん2階の座敷を使った遅い昼食を摂りながらのロギングタイム。
いくら寒いからといっても、キューッとビールを飲み干したのはいうまでもない。