大変なリゾートでの一日(1998年8月1日)
すっかりパシフィック・セブ・リゾートの住人になってしまった5日目の朝だ。今日は月が変わって8月1日。昨夜も激しい音でスコールがやって来た。今日はダイビングせずに1日砂浜でのんびり過ごそうと言うのがかねてからの計画だ。
朝食も「ダイビング組みが去った後の空いている時間に行こう」と9時ごろにレストランに行った。今朝は雲が広がっていて割と涼しい朝を迎えている。食事をしていてワイフが「スキンダイビングしたい」と言い出した。しかしこのホテルのプライベートビーチ前は座間味と違って魚も居ないしキレイとは言い難い。
「でも、ここのプライベートビーチ前じゃ遠浅だし、下がヌルヌルして気持ち悪いし。第一、サンゴも魚もいないョ」
「じゃあ、いつも船に乗っていた桟橋の端っこまで行こう」
ということでダイビングの時にいつも通っていた桟橋の端まで行くことにした。
ただ、昨日最後のダイビングから上がってきて器材をザッと水洗いして乾しておいたのでブーツもフィンもほとんど乾いている。明日帰るのに今更またビショビショにしたくなかったので自分はマスクとスノーケルだけを持って、裸足でスキンダイビングすることにした。ワイフはしっかりとブーツ・フィンも持っている。
やがて桟橋の端へ来たら、海洋実習へ出るのかフル器材を装備した講習らしきグループが木の階段からエントリーする所だった。イントラらしい人に「ここでスキンダイビングOK?」と聞くと、「OK」の返事。講習生達のエントリーに続いて、先ずこっちが裸足のまま海に入った。
その途端、右足の裏に激痛が走った。
「うわァ!」
「何かに刺されたァ!」
あわててマスクをつけて下を見ると足元の岩の陰に長い刺(トゲ)を持った「ガンガゼ」が見えた。
「うわァ! ガンガゼだァ!」
「ガンガゼを踏んじゃったァ!」
と、焦りまくる私に
「だからブーツが要るって言ったじゃない」とワイフ。
急いで木の階段を桟橋まで上がると、丁度そこに銃を持ったガードマンが居て、わけを話すと
「ホテルのレセプション(フロント)で治療を受けろ」
「連れて行ってやる」
と、言ってくれた。
足の裏を見ると7、8ヶ所にウニの刺(トゲ)が刺さっている。刺の大きさからするとどうやらガンガゼではなかったらしい。
痛くって足の裏をまともにつけない情けない格好でフロントへ着くと人の良さそうなオッチャンが出てきたので、足の裏を見せると
「そんなのションベンをかけとけば直るョ」
「ションベンしてみな」と英語で言う。
「本当? 今ここでですか?」
「でも出来ないですョ」と答えると、笑いながら薬をつけてくれた。そして「2、3日で直るョ」と言って送り出してくれた。後ろをホテルの女の子がクスクス笑って通り過ぎた。
プライベートビーチ前の海には何も居なかったので、ついうっかりとブーツも履かずに海に入ったのが文字どおり、痛い目にあった訳だ。「スキンダイビングのイロハを守らなかったバチね」と、楽しみを奪われたワイフが皮肉たっぷりの眼差しで言った。
すっかりブルーな気分になって、しばらくプールサイドに居たが、やがて砂浜の方へと移動した。このホテルの利用客はほとんどがダイビング目的なのか、砂浜には我々以外にもう一組の中年のカップルがいるだけで閑散としている。ワイフは一人でスキンダイビングをしに沖へ向かって歩いて行った。天気も少し回復して時折青空がのぞいている。右足は相変わらず痛みが取れない。
昼食後も浜辺に居たが、空が真っ暗に曇ってきた。今にもその雲全体が崩れてしまいそうだ。
「不穏な雲行きだゾ」
「なんかドカッと降ってきそうだゾ」
と、早々に部屋に戻ると本当にドーッとスコールがやってきた。まだ時刻は午後3時を過ぎたばかり。雨が白いカーテンとなるほどに激しい雨が降り始め、他の泊まり客も走って部屋に飛び込んでいる。可哀相に隣のコテージの洗濯物があっという間にビショビショになってしまった。